4 元気を取り戻す商店街 「恩返し」する番 まちの良さを売り込む

  • 特集, 胆振東部地震から3年~厚真の未来へ~
  • 2021年9月2日
「できることをやってきた3年間だった」と市原さん

  「あづま成吉思汗」で知られる市原精肉店(厚真町表町)はこの3年間、胆振東部地震で大きな損害を出し、売り上げが回復したと思ったら新型コロナウイルス流行に見舞われ、不可抗力に翻弄(ほんろう)されてきた。それでも「自分が被災者と言われるのはおこがましい。厚真のために恩返ししていかないと」と3代目の市原泰成さん(32)は誓う。「厚真町の良さをより多くの方に知ってもらうため、フットワーク軽く動いていきたい」と意気込む。

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   2018年9月の地震で店舗や工場に大きな損傷はなかったが、停電と断水が続いた影響は大きかった。豚肉など使える食材は保冷車とともに避難所の炊き出しに提供したが、在庫の食材200キロ以上は廃棄せざるを得なかった。調理器具などを流水で洗える環境が整わず、営業は2週間にわたって停止。純損失は500万円近くを計上した。

   営業を再開してからも半年以上、客足は回復しなかった。主要幹線道路の通行止めが解除された後も、道路は至る所がでこぼこのまま。自衛隊などの災害派遣車両も行き交い、町内で買い物や観光を楽しむ雰囲気には程遠い。地震前は売り上げの3分の2ほどを店頭販売で占め、特に札幌市など町外の買い物客が多かったこともあり「しばらくはだめだった」と振り返る。

   そんな苦境にも常連客から「復興したらお店に行きます」「商品を郵送して。応援しています」と温かい声が電話で届き、「復活への気持ちを強くした」。さらに「あづま成吉思汗」が、ふるさと納税の返礼品として人気を集めたことが追い風になり、売り上げは19年にV字回復。「平年の10倍になった月もあった。本当に助かった」と感謝する。

   20年春から続くコロナ禍に「影響はとても大きい」と率直な感想を漏らしつつ「地震後は皆さんから力を頂いた。今は恩を返すというか、渡す番」と強調する。「地震前から厚真に来てくれる方が年々少なくなっていた」と感じており、「厚真の良さを知ってもらい、来てもらう流れをつくりたい。移動販売車で町外に販路を広げるなど、厚真のまちに育てていただいた商品で厚真を売り込む」と夢に挑む。

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   厚真、安平、むかわ各町によると、地震による商工業の建物被害は計158戸に上り、10事業者が仮設店舗の営業を余儀なくされた。特に安平、むかわ両町は地震を機に廃業した事業者も多く、中心街の空洞化は加速した。「まちなか」の再生は今後の課題となっている。

   厚真町の中心市街地は04年度までに土地区画整理事業を終えており、「隣町より比較的建物が新しいため市街地の被害が少なかったのでは」と町担当者は分析する。地震が直接原因の廃業もなかったといい、建物が被災した飲食業やサービス業など4事業者は、京町の仮設店舗に入居している。

   昨年6月には町内の若者有志が結束し、空き店舗を利用した新たなコミュニティースペース「イチカラ」を開設。町民の学習会やイベントに利用され、新たな転入者の活動の場にもなるなど、まちなかを盛り上げる模索が続く。

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