7月10日、安平町早来地区にあるすずらんの丘で開かれた「遊育(ゆういく)事業」のイベント。会場は小中一貫義務教育学校の建設予定地になっている現早来小学校のそば。町教育委員会と町内の若者の有志が連携して開いた。「(丘に)どんなものがあるといい?」「どんな使い方ができる?」といった質問に、集まった幅広い年代の町民が、デートスポット、観光名所、カフェ、巨大ブランコや滑り台があってもいい―と次々にアイデアを出した。これらの声は、町民を交えて新しい学校づくりを検討する場で生かされる。
▽町全体をキャンパスに
安平町は2019年度から、さまざまな「学び」を「挑戦」につなげる「あびら教育プラン」を展開している。一つは、自然などの環境を生かした遊びを通じ、子どもの好奇心や感性を育む「遊育」。もう一つは、自ら見つけた課題やテーマについてさまざな視点から学び、プレゼンテーションなどのスキルも高めていく公営塾「あびらぼ」。さらに、町民が行うプロジェクトやチャレンジにコーディネートやサポートをしていく「カイタク事業」がある。
いずれも担い手の中心は、胆振東部地震以降、道内外から町にやって来た20~30代の青年たち。まち全体をキャンパスに見立て、教科書には載っていない「実践」や「リアル」を子どもたちに提供。新たな学びの魅力を伝えている。すずらんの丘でのイベントに参画したのも彼らだ。
▽外部から教育を支援
あびらぼでは昨年、教員の依頼に応じて計画を考案し、授業までを請け負う「センセイサポート」を開始した。これまでに映像番組の制作体験や海外の子どもたちとのオンラインでの交流、見学学習の事前授業や現地案内などを手掛けてきた。遊育に視点を置き、追分地区で春先にオープンしたガンケ山で総合学習も実施。事業内容を徐々に充実、拡大している。
▽新たな学校で本格化
町教委側でも、センセイサポートを入り口に「多くの方が外部講師として児童生徒と関われる状況を、(教育)現場と話し合って進めていきたい」と先を見通して前向きに話す。外部による多様な教育支援の動きを、新しい学校でも行う地域と協力した「ふるさと教育」や「学社融合事業」に波及させていく考え。教員の働き方改革が進む現場の負担を軽減する効果も狙っている。
▽理想と現実のギャップ
ただ、町の取り組み、理想に、学校現場や地域住民の気持ちがどこまで追い付いているのかは不透明。遠浅小学校の保護者から寄せられた「小規模校から大きな学校に通うリスクは?」など一人ひとりの疑問や不安に対応し切れておらず、ないがしろにしていると言わざるを得ない部分がある。
新しい学校の校舎は22年10月に完成し、翌年1月から早来小、早来中学校の児童生徒が新たな学びやで授業を受け始める予定。23年4月から早来地区の安平小学校、遠浅小も統合した小中一貫の義務教育学校として開校するが、それまでに校名や校章、服装、別々に行っている学校行事など検討する事項は多い。ほかにも解決しなければいけない課題は山積みだ。
今の取り組みを充実させながら、町が思い描く新しい学校にしていくため、現場や町民との擦り合わせなど教育関係者の模索は続く。学校を「自分が”世界”と出会う場所」にするために―。
※胆振東部支局・石川鉄也が担当しました。