7月27日夜、安平町の遠浅小学校で開かれた早来地区における学校統合に関する説明会。同地区に2023年度、小中一貫義務教育学校を開校させるに当たり、町教育委員会が遠浅小などの閉校を打ち出したことで、児童の保護者や住民が集まった。1人の保護者が勇気を振り絞り、悲痛な思いを訴える。「自然に子どもの数が減って閉校、統合されるなら仕方ないが、遠浅小(現児童数が46人)の場合は不自然だ。いきなり切り捨てられて、気持ちの整理がつかない」―。
▽地域のよりどころ
遠浅小は、児童たちが複式学級などで学ぶ小規模校。上級生は運動会や防災キャンプで下級生の世話をやき、声を掛けたり手を取ったりしている。下級生はそんな上級生に親しみを持ち、みならっている。教員と教え子の距離は近く、保護者が学校に寄せる信頼も厚い。さらに同校OBの住民も多数いて、地域にとって大きな存在となっている。
その中で、町教委は大きな決断を下した。対象児童が通学先の学校を選ぶ「学校選択制」を取りやめ、早来地区の安平、早来、遠浅の3小学校と早来中学校を2022年度で閉校し、義務教育学校に統合する方向にかじを切ったのだ。
▽残ったしこり
保護者からは同意の声と、閉校への反発や先送りを求める声が上がり、意見は真っ二つに割れた。町教委が7月上旬、遠浅小の保護者と遠浅地区から子ども園に通う園児の保護者に行った統合に関する意向調査でも、義務教育学校に「通わせたい」と「通わせたくない」は、ほぼ同数だった。
町教委と遠浅小の保護者、住民との意見交換は約2カ月に及び、最後は町教委が閉校の先送りを求める声を押し切り、統合を決めた。一連の議論は7月下旬に開かれた定例教育委員会の議決で終わりとなったが、保護者の1人は「(町教委に)もっと歩み寄ってほしかった」と肩を落とし、大きなしこりが残った感は否めない。
▽生かすべき経験
閉校に納得しなかった保護者や住民は遠浅小に愛着を持ち、町が新たな学校づくりで目指す「地域と学校を分けない」ことで生まれる影響を身をもって知っている。その経験やノウハウはこれから義務教育学校をつくっていく上で大きな力になるといえ、統合問題を機に町や町教委との間に距離ができないようにすべきだ。
▽課題は信頼回復
教育委員の1人は「遠浅小の保護者は何も悪くない」と理解を示し、「伝統的な行事も含め、どうすればすべての保護者が満足のいく学校をつくれるのか、これから保護者と話し合っていかなければ」と話す。別の教育委員も定例教育委員会の席上で「(しこりを解くために)こちらから話を聞いてあげる姿勢が必要だ」と町教委に歩み寄りを促す。
これまで義務教育学校へ行くメリットを挙げても、デメリットについては多くを語ることのなかった町教委。閉校を決断した立場である以上、一人一人から寄せられた疑問や不安の解消に努めるのは責務と言っていい。町教委と保護者らとの間で崩れかけている信頼関係の修復は、義務教育学校が開校するまでの1年半余りにおいて、大きな課題になりそうだ。