7月16日、安平町役場総合庁舎で開かれた記者会見。2018年9月に発生した胆振東部地震で使えなくなり、再建する早来中学校の校舎のイメージ案が示された。震災から2年と10カ月余りがたっても、生徒たちは仮設校舎で学んでいる。新たな学校への関心は高く、校舎やICT(情報通信技術)環境を設計した企業や教育機関の説明を聴こうと、会場には地元関係者、報道陣が大勢詰めかけた。オンラインでの参加も多数あった。
▽施設を地域に開放
会見の説明では、校舎は単に建て直すのではなく、築40年以上たって老朽化した同町の早来小学校の校舎も一体化させ、小中一貫の義務教育学校にする。さらに、学校を「小さな町」に見立て、地域の住民にも開放し、利用できるようにする。
コンセプトは「自分が”世界”と出会う場所」―。これからの時代を見据え「地域と学校を分けない」「ICTを活用した新しい学び」という要素を取り入れた公立学校を目指すものだ。
図書室は「まちに開かれる」場所として開放し、児童生徒と地域住民のコミュニティーを創出。二つのアリーナや、音楽室(スタジオ)、美術室(アトリエ)、家庭科室(キッチン)も一般利用できるようにする。
▽自由な発想で授業
設計を担った企業によると、新たな校舎は2階建て。前期課程(小学生)は学びの場を自由にレイアウトできるように、従来の教室よりゆったりとしたスペースを確保した。7~9年生(中学1~3年生)はホームルームをする教室とは別に教室を用意し、授業科目ごとに教室を移動して学ぶ仕組みにした。
ICT環境の設計を担当した企業、教育機関によると、学習スペースには黒板ではなく、ホワイトボードと映像などを壁に映し出す電子黒板を整備し、自由な発想で授業を進められるようにする。
▽住民の総意で
これらの案は、町や外部の教育専門家だけで考えたのではない。震災翌年から「新しい学校を考える会」や「教職員検討会」などを数回開催し、地域の子どもから大人までが参加して意見を出し合って出来上がった。そこで生まれた理想の学校が「いつでも子どもたちや町民の居場所、活動場所となる学校。夜も光が町を照らし、学校を支える人々を招き入れる学校」(早来中再建事業基本計画の一部)なのだ。
▽まちのシンボルに
町では、他の自治体にはない、安平町独自の学校の魅力を各方面に発信することで、若者や子育て世代の移住・定住を促進し、人口減少対策を進めたい考え。及川秀一郎町長は「教育を柱としたまちづくりは、単に胆振東部地震からの復旧を目指したものではない」とし、「新しい学校をまちの復興のシンボルとして位置づけ、教育の町としての魅力を地域と共に高め、安平町の未来をつくることは大きなチャレンジ」と力を込めた。
本格化する学校再建。”教育の町”を掲げる町の新たな取り組みが注目される。
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胆振東部地震で被災した早来中学校の再建がいよいよ動き出した。これに伴い、安平町は早来地区で23年度、早来、遠浅、安平の3小学校と早来中学校を一つにした「義務教育学校」を開校し、新たなスタートを切ろうとしている。町が掲げる理想、現状の課題などに迫る。
※義務教育学校 2016年度に新設された小学校と中学校の9年間を一体的なカリキュラムで学ぶ新たな学校種。従来の「6・3」制に限らず、義務教育の9年間を「4・3・2」など柔軟に運営できるのが特徴。中学進学時に環境変化で不登校になる「中1ギャップ」の解消などが期待される。