―開業1年のウポポイをどう評価しているか。
「ウポポイが造られたことは本当に良かったと思う。アイヌ文化の復興と発信の拠点施設ができたことで、アイヌ民族や文化への国民の関心が飛躍的に高まった。経済活動にもアイヌ文化を取り入れる動きが広がっている。例えば商品のパッケージにアイヌ文様を採用したり、アイヌ語の商品名を付けたりと、そうした動きがこの1年で急激に目立つようになった。白老のみならず、他地域のアイヌ協会にも文様を使いたい、監修してほしいといった事業所などからの相談が増えている。ウポポイの開業効果と思われる」
「一方、ウポポイやアイヌ民族が広く認知されるようになったことで、皮肉にも別の問題が顕在化した。アイヌ民族を中傷する投稿がインターネット上で増えたことだ。差別を助長するようなヘイトスピーチの背景にあるのは、アイヌ民族に対する理解が十分でないためだ。3月の日本テレビの情報番組でも差別的表現があった。無知から生まれる差別を減らすために、アイヌ民族がたどった歴史を正しく伝えることがウポポイの大きな役割の一つだ」
―ウポポイに望むことは何か。
「アイヌ民族は明治政府の同化政策や土地政策で伝統の文化、生活基盤を失い、民族の誇りも奪われた。差別や偏見にも苦しめられた。アイヌ民族の誇りが尊重される社会実現をうたうアイヌ施策推進法の制定、アイヌ文化復興拠点のウポポイの開設は、そうした苦難の歴史的経緯を背景にしたものだ。国はなぜ200億円も投じてウポポイを整備したのか、地域のアイヌ文化振興などに使う交付金をなぜ出すのか。国民はその理由を知らなければ、アイヌ民族のために国はどうしてそこまでするのか―と思うのでは。国が一つの民族の文化や自尊心を奪うことをしたので、国の責務としてそれを回復しなければならない。そうした原点的な理屈に基づいてウポポイは運営されるべきであり、その基となるアイヌ民族の歴史的経緯を伝える博物館の展示などを充実してほしい」
―改めてウポポイの意義をどう捉えているか。
「明治以降、北海道へ大量にやって来た入植者から、劣ると見られたアイヌ文化は歩みを止めてしまった。だが、それは多数者の勝手な見方であり、決して劣る文化ではなく、その豊かな精神性が見直されている。今を生きるアイヌ民族自身も、先祖がつないだ文化は劣ったものではないと理解し、学び直し、未来をつくっていくことが大事だ。文化を復興し、アイヌ民族の誇りの回復を後押しするのがウポポイの大きな存在意義。地元や各地のアイヌ民族との関わりを深め、機能を十分に発揮すべきだ。さらにアイヌ民族だけでなく、日本に住むさまざまな民族が差別的な扱いを受けず、共に生きていける民族共生社会の実現を啓発する施設になってほしい」
岡田路明(おかだ みちあき) 札幌市出身。旧アイヌ民族博物館職員、旧苫小牧駒沢大学教授などを経て現在、北洋大学客員教授(アイヌ文化)。白老町在住。70歳。