12日で開業1年を迎えた白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)。アイヌ文化の復興と発展のナショナルセンターとして誕生したウポポイの成果、課題などについて関係者に聞いた。
―開業1年をどう受け止めているか。
「昨年7月12日の開業以降、これまでに25万人を超える入場を数えた。コロナ渦の中でこれだけの方々が来場し、貴重で豊かなアイヌ文化に触れていただいたのは、アイヌ文化発信と啓発に一定の成果があったものと評価を頂けるのではないか。ウポポイの使命であるアイヌ文化の継承や創造、発展については、じっくりと取り組んでいく性質のものであり、目標を果たせたかどうかの答えを出すのは時期尚早と考える。しかし、施設がアイヌ文化の扇の要となり、ネットワークの拠点となる機能を発揮することに力を注ぎたい」
―各地域で異なるアイヌ文化の多様性をどのように伝えているか。
「文化庁が2016年に定めた国立アイヌ民族博物館展示計画では、地域に隔たり無く資料を展示することを基本コンセプトとしている。それを踏まえ基本展示室では白老だけでなく、平取や旭川、樺太など各地アイヌ文化の紹介に努めている。国立民族共生公園で上演する伝統芸能の舞も同様。楽器演奏でも樺太のトンコリを紹介するなどアイヌ文化の豊かさを象徴する地域性を尊重している」
「伝統芸能の上演で各地域の踊りを演目に取り入れる際には、それぞれの土地の伝承者の指導を受け、工房や伝統的コタンについても協力を頂いている。プログラムの実施は各地域との共同作業という認識だ。各地のアイヌ関係団体と丁寧に向き合い、イベントなどを通じて交流し、連携を深めたい。ウポポイをアイヌの人々の心のよりどころにする使命を果たしたい」
―文化伝承の人材育成にどう取り組むか。
「伝統芸能に関わるスタッフについては、旧アイヌ民族博物館が所蔵していた音源・映像資料を教材に踊りや歌を学ぶウポポチームを設置し、伝統的な歌唱方法などを習得する取り組みを始めたところだ。個々のスタッフの練習内容や課題、成長具合を記録し、それ自体も教材にする流れをつくりたい。スタッフのスキルは徐々に向上しており、チームとしてもレベルアップしているが、まだ始まったばかりだ。人材育成は長い時間を要する作業であり、開業1年程度で成果を誇るのは早い。アイヌ文化の伝承、創造という二つの視点のバランスを取りながら、育成に取り組んでいくことが今後の課題と捉える」
―アイヌ民族への国民理解は進んだと思うか。
「アイヌ施策推進法の制定、地域の文化振興活動などへの交付金事業の開始、そしてウポポイ開業と、アイヌ民族をめぐる動きはかつてない盛り上がりを見せている。世論調査を見ても、アイヌ民族に対する国民理解は着実に進みつつあるが、日本テレビ情報番組での差別的表現が問題となったように十分と言えるには程遠い。ネットに偏見や差別的発言が流れるヘイト問題も、民族の歴史や文化に対する認識、尊重の欠如が背景にある。このため、国民理解促進を任務とするウポポイの役割は大きく、活動が差別問題の解消につながることを期待している」
プロフィル 斉藤基也(さいとう もとや)。札幌市出身。北海道大学卒。道開発局事業振興部調整官を経て、4月からアイヌ民族文化財団・民族共生象徴空間運営本部長。白老町在住。59歳。