苫小牧市美術博物館で7月4日まで、収蔵品展「苫小牧ゆかりの書 蔵出し展」を開催している。同館では地元書家を中心に優れた書を所蔵しているが、前身である市博物館時代を含め、書をテーマとする展覧会は本展が初めて。同館学芸員の沖津かんなさんに、展示作品の中から特に注目の1点について解説してもらった。
◇~「嶺上多白雲」1987年~
東宮御所で皇太子殿下(今上天皇)の書道教授も務めた桑原翠邦(1906―1995)の作。
自身が主宰する書宗院の苫小牧移動展の際に来苫し、「嶺上多白雲(嶺上白雲多し)」と揮毫(きごう)したこの作品は、陶弘景(とうこうけい)の漢詩の一文から引用したものと考えられる。よどみなく重厚感のある線で、画数が多く密になりやすい「嶺」は山かんむりの下や頁の中に空白を作り、疎を生み出して調和を図っている。「多」「白」も同様に懐を広く取り空白を生かしている。全体を通して筆の運びに変化を付け、線に潤渇を生み出して絶妙なバランスを取っていることが分かる。
書は普段親しみのない人からは「どう見ていいか分からない、読めない」という声も聞かれるが「読める、読めない」だけにとらわれず線の流れ、白と黒の絶妙な均衡といった書の持つ美しさを感じていただければと思う。鑑賞のヒントも本展入口で配布しているので、ご参考になれば幸いである。
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午前9時半~午後5時。月曜休館。観覧料は一般300円、高校・大学生200円、中学生以下無料。