消防と龍
戦前、戦後を経た1948(昭和23)年、消防組織法が施行された。これにより警察行政の一部であった消防は警察から分離し、各市町村の責任とする自治体消防が発足した。
同年に市制施行となった苫小牧市においても、市消防本部、市消防署、市消防団が誕生した。新体制は、消防職員(署長以下22人)、消防団員(団長以下297人)からなる組織で、火災予防と火災警戒業務の推進に努めた。
この当時、苫小牧市消防団の団長が着用した刺子を見てみると、表地は黒一色だが、裏地には水の神である龍の姿が描かれている。江戸時代から刺子の裏地には火防の龍や勇ましい武将の絵柄がよく用いられたといい、見えない部分へのこだわりが粋である。
ところで、龍と消防は切っても切れない関係にある。近年、東日本大震災での教訓を踏まえ、石油コンビナート等の災害における緊急消防援助隊の応急対応能力の向上のために「ドラゴンハイパー・コマンドユニット(エネルギー・産業基盤災害即応部隊)」が編成された。2018(平成30)年に北海道では唯一、市消防本部に大型放水砲搭載ホース延長車・大容量送水ポンプ車が配備されている。
部隊の名前の由来は、江戸時代から明治時代にかけて用いられた消火道具の龍吐水にちなむ。全国統一のシンボルマークはもちろん龍である。
過去から現在に引き継がれる「龍」には、縁起をかつぐ火消しの精神が脈々と息づいているように感じる。
(おわり)
(苫小牧市美術博物館学芸員 佐藤麻莉)