JR苫小牧駅南口の旧商業施設「駅前プラザエガオ」をめぐる5月28日の控訴審判決は、再び市の主張を退けた。最高裁への上告期限は6月11日だが、市は上告しない可能性が濃厚だ。市が最も主張したかった権利集約の「公共的な目的」について、一審では言及がなかったが、札幌高裁は目的の正当性は認めた。それでも、大東開発の賃料の請求が「権利の乱用に当たるとはまでは言えない」と認定したためだ。
「裁判所も仲介する努力を重ねてきた」と長谷川恭弘裁判長が述べるほど、望みを託した和解協議は不調に終わった。しかし市は、すべての権利を集約する前提で大東側と交渉し、民間主導の再開発につなげる方針を崩してはいない。訴訟の前と後で違いがあるとすれば、「係争中」という障壁がなくなり、開かれた議論が可能になることだ。
市は成長戦略として中心市街地や苫小牧港周辺の活性化を図るため、2020年度に「都市再生コンセプトプラン」を策定した。世界的建築家の隈研吾氏の事務所も業務に携わり、エガオ跡地にシンボリックな複合ビルを建設し、周辺を緑で包む駅前再生のイメージ図を打ち出した。
市のホームページで公開するとともに、3月には苫小牧商工会議所との共催でシンポジウムを開き、「都市再生」を市民にアピールした。市国際リゾート戦略室は「このプランをたたき台に、まちづくりに向けた議論を促したい」と、解決への機運を加速させたい思惑を明かす。
市議会の議論も焦点となる。市に損害賠償を命じた判決が確定し、大東側に年間約130万円もの賃料を公金から支出するとなれば、市民負担が発生する。エガオ問題の経緯を検証し、その支出の妥当性を問う中で、打開策の糸口が見いだせるかもしれない。
大東側は控訴審判決後、取材に応じていないが、当初から提訴理由を「(市に)再開発に関心を持ってもらいたい」と説明していた。大東側も駅前再生自体を拒んでいる訳ではない。
「和解によって抜本的に解決されるのが望ましいことは双方の認識が一致し、地域住民の願いでもある、と思われる」―。裁判長はあえて「地域住民の願い」に言及した。まちなか活性化を考える市民主体の会議のメンバー、磯貝大地さん(42)は「早く解決してほしい。本当にまちのためになっているのか、双方に考えてもらいたい」と力を込めた。
(河村俊之)