(上) 一筋の望み断たれる 和解協議決裂 市の譲歩案限界

  • 特集, 駅前再生どこへ-旧エガオ控訴審決着
  • 2021年5月31日
閉鎖から7年近くたち、廃虚化が進む旧エガオビル

  JR苫小牧駅南口の旧商業施設「駅前プラザエガオ」をめぐり、建物の現所有者の市に対し、土地の一部を所有する大東開発(苫小牧市)が賃料相当分の損害賠償を求めた訴訟。昨年7月に始まった控訴審は第1回口頭弁論で双方の提出資料の確認を終えると、長谷川恭弘裁判長はすぐに和解勧告を出した。「話し合いを積極的に進めてほしい」と呼び掛け、双方が応じる姿勢を見せた。

   2020年2月の一審判決は大東側の主張を全面的に認め、市に損害賠償として583万円の支払いを命じた。市が旧エガオビルの廃虚化を防ぐため、公共的な目的で元の権利者から寄付を受け、建物と土地の所有者になった経緯などを示し、同社の請求が「権利の乱用」と訴えたが、ことごとく退けられた。

   法律論上、同社は土地の固定資産税を払っており、地権者として賃料相当分を請求するのは正当な権利と言え、控訴しても判決を覆すのは困難との見方が根強かった。それでも、市が控訴したのには、裁判所が仲介する和解協議に持ち込めれば大東側の真意が見え、権利集約につなげられるのでは―との一筋の望みがあったからだ。

   エガオは民間の商業施設だったが、市郊外の発展に伴って中心市街地の衰退を止められず、14年8月に閉鎖した。権利関係が複雑で市は15年8月ごろ、再開発に向けた一時的な受け皿として権利集約に努める方針を決め、地権者らとの交渉に動く。全29法人・個人の権利者のうち28法人・個人が寄付に協力したが、残る大東開発との協議は難航し、訴訟に発展した。

   高裁の勧告に基づく和解協議は非公開で、計8回にわたった。関係者によると、裁判所側も訴訟では本質的な解決にはつながらないとの認識から、駅前の再開発が円滑に行われる方向性を前提に、協議を求めていたという。

   市は土地と建物の全権利を一本化した上で再開発を条件に民間に無償譲渡する戦略を取る一方、大東側に土地の寄付に応じる法的義務はなく、どこで折り合うかがポイントだった。

   岩倉博文市長は記者会見でも一定の譲歩に含みを持たせていたが、簡単な話ではなかった。想定される譲歩案は土地の交換や有償での買い取りだが、大東側にのみ特別な条件を認めれば、再開発への協力を理由に寄付した権利者との公平性が揺らぐ。買い取りに公金を投入するとすれば議会審議が必要な上、一部権利者のために市民負担を強いることにもなる。

   結局、和解協議は決裂。28日の控訴審判決は市の主張を再び退けた。一審判決から1年3カ月、時間だけが費やされ、駅前再生を望む多くの市民の願いはかなわないままだ。

       ◇

   旧エガオ訴訟・控訴審判決は一審を支持し、市に全面敗訴を言い渡した。不調に終わった和解協議を含め、駅前再生の障壁となっている旧エガオ問題の打開策を探る。

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