いじめ、借金、2度の離婚とさまざまな苦難を乗り越えてきた苫小牧市弥生町の主婦及川久美子さん(62)。どんなときも笑顔と感謝の気持ちを持ち続けた。「生まれてきたからには何か役に立って死にたい」と5年ほど前から、アイヌ語を記したトランプなどを自費で作ってきた。
旧静内町(現新ひだか町)出身。母方の祖母がアイヌで幼少期はいじめに遭った。特に小学校1~3年生の時は毎日のように校門の前で待ち伏せされ、靴を隠されたり、たたかれたりした。学校になじめず、山や川で遊ぶ毎日を送った。
生きるとは何か、よく考えた。空を見てはなぜ青いのか、雲に乗れないのか。山へ行っては自然の素晴らしさを感じた。読み書きはできなかったが、その分いろんなことを自分で妄想したという。生まれたからには何か天命があるはず。生きる意味や先祖に対する感謝も考えた。
小学校5年生で母親を亡くし、苫小牧市住吉町で暮らす姉に育てられた。市内の小学校に転校しても、いじめは終わらなかった。つらい日々だったが「一般人よりも強く育った。正義に対しての認識が深まった」と力を込めた。
21歳で牧場や輸送を手掛ける社長の息子と結婚。室蘭市に家を建てた。欲しいものは何でも手に入る生活に様変わり。しかし、及川さんは満足するどころか「これでいいのか。何のために生きて死んでいくのか」と、むなしさを感じた。
そこで始めたのが老人ホームでのボランティア。「なぜ社会を引っ張ってきたお年寄りが家ではなく老人ホームにいるのかな。祖父母と接点がなかったので関心があった」という。自分を迎え入れてくれることがうれしく、通い続けた。
その後、夫が新たに英会話事業を始めた。自宅2階の他、札幌や釧路にも教室を作ったが、経営は思うようにいかず1億円以上の借金を負った。及川さんは昼夜問わず働き続け2年半ほどで返済したが、28歳で離婚。幼い子ども2人を連れて苫小牧市に戻り、コンビニやスーパーでレジをした。頼られることにやりがいを感じ、子ども食堂でもボランティアをしたという。
37歳で2度目の結婚。娘の真実さん(22)を授かったが、ストレスによるうつ症状に悩み55歳で離婚、弥生町へ転居した。アイヌ語トランプの製作を始めたのは57歳の時。東京五輪の開催を前に、世界に「日本文化と北海道の歴史を伝えたい」と考えたからだ。
昨年は新型コロナウイルス感染拡大に伴う貧困や自殺者の増加に心を痛め、助け合いや諦めずに頑張る大切さを伝える絵本を出版した。来月にも、新たな絵本製作に取り掛かる予定だ。「山に捨てられたごみや地球温暖化を問い掛けたい」という。(樋口葵)
及川 久美子(おいかわ・くみこ) 1958年12月、旧静内町(現新ひだか町)生まれ。趣味は山菜採り。たくさん取るのではなく、家族4人が食べる分だけを収穫することがモットー。山の澄んだ空気が好きで、春と秋は日高町や平取町の山まで出掛ける。苫小牧市弥生町在住。