国立アイヌ民族博物館の収蔵資料展「イコロ」に設けているカンピ(紙)のコーナーでは、アイヌ文化を見詰め、外側から記録した資料としてアイヌ絵を紹介する。
「蝦夷国風図絵」は、約250年前に松前の絵師・小玉貞良がアイヌの生活や熊送り儀礼等を描いた絵巻物である。衣服を見ると、黄色は樹皮、白色は草皮、紺地や緑地は木綿や絹のものと考えられる。花ござは黄土色で模様は染色した赤茶色、無地の緑色のござは新調した可能性がある。採りたての植物は青々としており、乾燥すると黄土色に変化する。漆器は黒や朱色、金属部分は黄色等、素材ごとに描き分ける。
貞良は「蝦夷絵」(市立函館博物館蔵)に多様な衣服や交易で入手した品々を描いており、民具を実際に目にした可能性が高い。
第3期では、平沢屏山の「酒宴図」を紹介する。屏山は大迫(岩手県花巻市)出身の絵馬屋で、幕末から明治初期に函館でアイヌ絵を数多く制作した。絵師や年代により、使用する色料は異なるが、屏山の鮮やかな青はウルトラマリンブルー、緑はエメラルドグリーン、19世紀にヨーロッパで合成された人造顔料と推測される。今回は、蛍光X線分析装置による色料調査の結果を合わせて展示する。
その隣には、平福穂庵の「アイヌ社頭」が並ぶ。平沢屏山の代表作「蝦夷風俗十二ケ月図 正月年礼の図」(天理図書館蔵)を手本としている。平福穂庵は秋田の日本画家で、函館に滞在した際に、屏山の作品を見たようだ。
紹介した作品は開館に向けて収集したもので、本展が初公開となる。類例や写本が多数あり、250年前も、150年前も、アイヌ絵の需要が多かったことが伝わる。アイヌ絵は、往時の生活を知る手掛かりとなり得る。展覧会場に並ぶさまざまな素材の民具は、絵画の中で一堂に会し、その情景を見ることで、会場全体がつながってくる。民具と絵画を行き来しながら、展示を楽しんでいただきたい。
(国立アイヌ民族博物館・霜村紀子資料情報室長)
※白老町の国立アイヌ民族博物館・収蔵資料展「イコロ―資料にみる素材と技」(30日から第3期開催)をテーマにした本企画は、毎月第2・第4土曜日に掲載します。