①2度の苦境乗り越え 「最後まで鵡川らしく」貫く―鵡川高校野球部 西村天辰

  • コロナを糧に~巣立つ高校生アスリート, 特集
  • 2021年3月6日
大学野球部で飛躍を誓う鵡川高の西村

  2020年5月20日、新型コロナウイルスの影響で全国高校野球選手権大会が中止になった。鵡川高野球部の副主将だった西村天辰=にしむら・てんしん=(18)は、鵡川町内の仮設寮でテレビ画面越しにその瞬間を見届けた。「夏の甲子園が無くなる話は少し前から仲間内で飛び交っていたけど、いざ現実を突き付けられると涙が止まらなかった」と言う。

   同じ中堅手で自主練習仲間だった後輩の谷村拓海(2年)に声掛けし、屋内練習場へ向かった。「あまりにもつらくて気を紛らわせたかった」からだ。1時間ほど無心でバットを振り込んだ。気付けば練習場は同じ心境のチームメートであふれていた。

   最上級生のみで行った翌日のミーティングでは重苦しい時間が流れた。「秋の新人戦に向けて後輩たちの補助に回ろう」「野球自体続けてもいいのか」。そうした意見が交わされた。18年9月の北海道胆振東部地震で被災し、翌年秋に3年ぶりの道大会進出を果たしてきた頼もしい世代。最大のヤマ場となるはずだった夏、スローガンに掲げた「甲子園で勝つチーム」を実現できなくなったことに戸惑いを隠せなかった。

   その後、室蘭支部と南北海道の代替大会開催の知らせが届いた。それでも「しばらく気持ちが入らなかった。なんで野球をしているんだという感覚だった」と吐露する。指導者の助言も得ながら同期たちと根気よく話し合いを重ねた。「甲子園が無くても『鵡川が甲子園に行くべき』と思われるチームにはなれるはず」。腹をくくった。

   西村は1番中堅手としてチームの室蘭支部大会突破に貢献。続く南大会では1回戦で立命館慶祥(札幌)と大接戦を演じた。惜しくも9―12で敗れ、「今まで経験した以上の悔しさがこみ上げた」と言う半面、「最後まで鵡川らしい試合はできた。腐らずにやってきて良かった」とすがすがしい気持ちにもなった。

   未曽有の感染症に大地震。3年間の高校野球生活で2度も苦境に立たされた中、「指導者や地域の方々に支えてもらいながら人としてたくさん成長することができた」と胸を張る。4月から千葉県大学野球連盟1部リーグの清和大に進学し、野球を続ける。大学年代の全国大会出場を目指して研さんの日々を送るのはもちろん、「高校での経験を糧に次は自分が苦しむ人たちを支える存在になりたい」。目を輝かせた。

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   新型コロナウイルス禍の一年に翻弄(ほんろう)された高校3年生スポーツ部員たちが3月、卒業を迎えた。進学や就職と人生の大きな転機が間もなく訪れる。苦境を糧に新たな道に進む東胆振の生徒たちの思いを取材した。計10回随時掲載。

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