民族共生象徴空間 開業半年 見えた課題 本質的活動、問われる真価

  • ウポポイ開業へ, ニュース, 白老・胆振東部・日高
  • 2021年1月12日
ウポポイでアイヌの丸木舟を見学する来場者=昨年10月撮影

  白老町に整備された民族共生象徴空間(ウポポイ)は12日で開業から半年を迎えた。新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)されつつも、入場者数19万人の実績を上げた。だが、同化政策や差別の歴史を背負う先住民族アイヌや伝統文化への理解促進という本質的活動がいまだ不十分と指摘する声も聞かれる。施設の役割をどう発揮していくか、開業2年目に入る2021年は真価が問われる年となる。

   ■コロナ禍の中で健闘

   「入場制限を行ったり、アイヌ文化の体験プログラムが十分にできなかったりと、新型コロナに揺さぶられた半年だった」。ウポポイを管理運営するアイヌ民族文化財団(本部札幌市)の今井太志事務局長はそう振り返る。

   ウポポイはコロナ感染拡大の影響で当初予定より2カ月半遅れて、昨年7月12日にようやく開業。だが、感染対策で1日の入場者数を制限し、予定のプログラムも控えざるを得ない状況となった。それでも入場者数は今月6日までに18万9272人に上り、コロナ禍の中でも健闘の実績を挙げた。今井事務局長はウイルス流行の収束後を見据え、「半年間の経験を生かし、来場者に満足してもらえるようプログラムの充実を図り、文化伝承の場の役目を果たしたい」と話す。

   ■展示に物足りなさ

   予想外の事態に見舞われ、活動の制限を強いられた半年となったが、そもそもアイヌ民族への理解促進と文化復興拠点としての姿勢に物足りなさを感じる人は多い。アイヌ民族の歴史や文化に詳しい苫小牧郷土文化研究会顧問の山本融定さん(82)もその一人だ。

   例えば中核施設の国立アイヌ民族博物館に関しては「アイヌ文化の泥臭さ、人間臭さが展示物から伝わりにくく、あまりにきれい過ぎてリアルさが感じられない」と言う。明治以降の同化政策や土地政策で先住民族アイヌが伝統の営みを失い、差別も受けた負の歴史の展示も不十分と指摘し、「博物館は遠慮せずに過去の出来事をきちんと伝えることが大事だ」と話す。

   文化庁は博物館の名称について当初、国立アイヌ文化博物館とする予定だった。しかし、地元白老の関係者の異議を受けて、現白老アイヌ協会理事長の山丸和幸さん(72)が2016年の道アイヌ協会理事会で文化庁の提案に反対し、他の理事の賛同を得た経緯がある。山丸さんは「博物館はアイヌ文化を紹介するだけの場ではない。国は触れてほしくない部分と思っているのかもしれないが、負の歴史的経緯や時代背景も正確に伝えて民族や文化復興の国民理解を促すことが、民族共生をうたうウポポイの本当の役目ではないか」と強調し、今後の活動に期待を寄せる。

   ■冷ややかな視線

   ウポポイの整備は、先住民族の権利回復という世界的潮流の中で浮上。先住民族政策の扇の要として国が建設した。しかし、開業から半年を迎えた今もウポポイに冷ややかな視線を送るアイヌの人々は少なくない。民族の血を引く地元白老の男性は「国は土地や資源など先住権議論を置き去りにし、文化発信の活動にとどめようとしているように見える。ウポポイを造ってアイヌ問題にけりを付けるという考えならば、それは間違いだ」と批判する。

   全国の大学に研究目的で保管されていたアイヌ民族の遺骨を収めるウポポイの慰霊施設への異論も根強い。大学に遺骨返還を求めてきた平取アイヌ遺骨を考える会の木村二三夫共同代表(71)は「土地から生まれ、土地に帰るのがアイヌの死生観。慰霊施設に遺骨を押し込めず、国と大学は責任を持って全てふるさとに帰すべきだ」と語気を強めた。ウポポイはアイヌ民族にとって求心力のある存在にいまだ成り得ておらず、その点についても課題を残したままだ。

過去30日間の紙面が閲覧可能です。