アイヌ民族の衣服には、自製の物と交易や労働の対価により手に入れた物がある。自製の物には獣皮衣、魚皮衣、鳥皮衣、樹皮衣、草皮衣があり、交易などで入手した物には、木綿衣や陣羽織、小袖などがある。
国立アイヌ民族博物館の収蔵資料展「イコロ」の本コーナーでは、木綿衣と樹皮衣を素材と技術に焦点を当てて展示しており、今回は、第1期(1月24日まで)のアットゥシについて紹介する。アットゥシ(樹皮衣)は、オヒョウやシナノキなどの内皮を糸にし、織機で布を織り、着物に仕立て文様を入れた衣服である。主に北海道のアイヌ民族が着ていた。
アットゥシの文様の置き布の縫い付け方は、個人差や地方差などさまざまである。展示資料は、一定のルールに沿った方法で縫い進められており、今回の方法は、筆者に技術指導をしてくださった方々の方法と同じである。その縫い方をこれらの衣服を見て確認し、展示することができた。
パネルにて、文様の布の重なる順番を紹介している。この順を追っていくと、どのように文様が作られたのかが推定できる。また、布を縫い付けた後の糸刺しゅうを刺した順も展示している。今回の資料は糸刺しゅうに交差が見られ、一筆書きで縫い進められている。文様の付け方を見ると、この作り手は、布の縫い付けは左から行い、糸刺しゅうは、右から行っていると推定される。これは、その時の気分で進む方向が違ったのか、布の縫い付けと糸刺しゅうを違う人が行ったのかなど想像が膨らむ資料である。
X線CT装置による調査画像により、文様の縫い方や作り手の癖が見える。今回は、実物では見えない布の重なりをCT画像で確認し、それを基に実際に縮小した文様を作製した。このような分析機器も使って資料の特徴などを調査し、資料情報の収集に役立てばと考える。
これからもアイヌ文様の美しさを作り出す技術についても伝えていければと思う。
(国立アイヌ民族博物館・北嶋イサイカ学芸員)
※白老町の国立アイヌ民族博物館が開催中の収蔵資料展「イコロ―資料にみる素材と技」をテーマにした本企画は、毎月第2・第4土曜日に掲載します。