(5)福島の親子を苫小牧に招く 市民団体ふくトマ石田英人代表(56)

  • 東日本大震災から10年, 特集
  • 2021年1月8日
「皆さんの支えなしでは保養活動を続けられなかった」と話す石田さん

  東日本大震災による巨大津波の影響で、放射性物質の放出が起きた東京電力福島第1原発事故から1年4カ月後の2012年7月。苫小牧市北光町在住の石田英人さん(56)は市民有志らと共に、福島県の未就学児とその保護者を苫小牧に招いて自然体験などを楽しんでもらう保養活動に乗り出した。

   手探りで始めた試みだったが、放射性物質を心配せずに思い切り土や草花に触れて遊ぶ子どもたちの笑顔を見て、「10年間続けよう」と決意。市民団体「フクシマとつながる苫小牧」(通称・フクとま。後に「ふくトマ」に改称)を立ち上げ、毎夏7、8組の親子を招きジャガイモの収穫や藍染め、乗馬体験や自然散策、公園遊びなどを取り入れた保養活動を行ってきた。

   中心メンバーは10人ほどだが、一行が滞在する間は子どもの世話や活動の補助などで多くの人手が必要となる。実施に当たっては市内の企業や団体、市民などの協力を得て1日当たり30~40人のボランティアが集まったといい、「苫小牧と福島の人が交わり合いながら、つながりを強めてきた」と石田さんは話す。

   活動の中では、原発事故をテーマとした映画上映会や市内の子どもを集めた雪中運動会、ピザ作り教室といったイベントを市内で積極的に開催。19年春には郡山市にも出向き、北海道と福島の食材を使った料理教室を行うなど、苫小牧と福島で保養活動の周知を進めてきた。昨年は新型コロナウイルスの影響で中止したため、10年の節目となる今年は2年ぶりの実施。団体にとっては最後の取り組みで「何も分からない中で始めたが、多くの人たちの支えで続けてこられた。何とか開催したい」と語る。

   まずは今夏の保養活動を成功させることが大きな目標だが、石田さんがその先に見据えているのは「原発」を考える団体の立ち上げ。一人一人が真剣に原発と向き合えるような働き掛けをする活動を構想中だ。

   「原発は自分が生まれた頃に国内で本格的な運用が始まり、その恩恵を受けながら生きてきた。この世代の責任として、原発事故が起きた時に誰かを責めたり、放射性廃棄物を互いに押し付け合ったりする時代を終わらせたい」

   描いているのは単なる反原発の訴えではなく、自分たちで責任を持って原発に頼っている今の時代を終わらせる―という思い。そのために「みんなで知恵を出し合えるような場を作りたい」と、これまで出会ってきた福島の親子の笑顔を思い出しながら、力強く語った。(姉歯百合子)

  (おわり)

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