(2) 被災地から学ぶ防災意識 苫小牧港開発石森亮会長(67)と飯村豊常務(58)

  • 東日本大震災から10年, 特集
  • 2021年1月5日
「被災地視察は参加者の防災意識の向上につながっている」と語る石森会長(右)と飯村常務

  2014年から定期的にフェリーを利用して東北の被災地で視察研修を行う苫小牧港開発。19年までに計14回開催し、延べ310人が参加した。「百聞は一見にしかず」との思いからスタートした事業は、同社の従業員だけではなく、地元企業や行政機関の職員も参加するなど、地域の防災意識向上に役立っている。

   震災が発生した11年3月、石森亮会長(67)は日本政策投資銀行の常務執行役員(北海道・東北地域担当)の職に就いていた。同行が仙台市に立ち上げた復興本部を拠点に業務に当たりながら、苫小牧港と航路を結ぶ八戸港や仙台港、大洗港の復興を見てきたという。

   12年6月に苫小牧港開発の社長に就任後、津波を含めた防災対策の必要性を感じるとともに、従業員一人一人が広い視野を持ち、旅客フェリーを定刻出港させる使命感を持ってもらおうと、被災地視察研修の実施を決めた。

   初回の研修は震災から3年半後の14年10月に行われ、宮城県石巻市や松島町、名取市などを回った。参加者の多くが被災地の姿に衝撃を受けていたといい、石森会長は「特に多くの児童が亡くなった石巻市の大川小学校に行った時は、みんなぼうぜんとしていた」と振り返る。

   視察を重ねるにつれて、復興に向かう光景も見られるようになった。被災した水産加工品工場や酒蔵では震災から立ち直り、新工場の建設や日本酒の仕込みを再開。研修担当の飯村豊常務(58)は「復興の様子を見た当社社員や研修参加者の間にBCP(事業継続計画)を具体化する意識が浸透している」と語る。

   同社は震災後、本社ビルの建て替えやBCPの策定、苫小牧西港ターミナルビルの非常用自家発電機の増設を実施。有事の際に地元企業で対応に当たる組織も構築するなど、対策を強化したことで社員の防災意識も高まった。胆振東部地震の際には迅速な対応で、運営する苫小牧西港フェリーターミナルに大きな混乱はなかったという。

   今年度は新型コロナウイルスの影響で研修を見送ったが、震災発生から10年が経過しようとする中、企業として教訓を生かし、防災への備えや意識を高める取り組みを続ける思いは変わらない。

   石森会長は「現地を見て分かることもある。災害はどこでも起こり得る。現地で話を聞くだけでも違うので、コロナが収束した後には被災地の視察研修を再開したい」と話している。

  (室谷実)

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