2 科学分析装置の活用 内部観察、深く安全に

  • イコロ 資料に見る素材と技, 特集
  • 2020年12月26日
データ上で平面展開したござのCT画像
データ上で平面展開したござのCT画像
ござの縁の様子と模様部分
ござの縁の様子と模様部分
CT画像(撮影時の巻かれた状態)
CT画像(撮影時の巻かれた状態)

  国立アイヌ民族博物館の初めてのテーマ展となる収蔵資料展「イコロ」は、資料にみる素材と技に着目した展覧会である。資料の素材や巧みな技を知るには、目視で細かく観察することが最も重要であるが、内部の構造や素材の元素など直接目では見られない領域を調べることで、より深く資料を知ることができる。当館では、資料を壊すことなく不可視な領域を調べる方法として、複数の科学分析装置を導入し、さまざまな調査に活用している。本展の舞台裏として、ここでは展覧会を支えた科学分析装置について紹介したい。

   今回、最も多くの調査に用いた装置はX線CT装置(以下、CT)である。CTは測定対象に360度方向からX線を当て、断面や内部の立体的な観察を可能にする機器であるが、当館のCTは、アイヌ民族資料を測定するために測定範囲やX線出力などをカスタマイズした特別な装置である。断面を観察することでマキリ(小刀)のさや内面の切削痕やシントコ(行器=ほかい)内部の上げ底の様子などの調査に加え、保管時の状態(巻かれた状態)のござを開くことなく測定し、データ上で平面展開する新しい観察方法も試みた。脆弱(ぜいじゃく)な資料も安全に調査できる方法として今後の活用が期待できる。

   この他、蛍光X線分析装置や電子顕微鏡(蛍光X線分析装置が付属)を使用して素材の調査も行っている。蛍光X線分析装置では、主にニンカリ(耳飾り)やタマサイ(首飾り)のシトキ(飾板)など金属素材の調査を行い、検出元素から真ちゅうや洋銀などの使用材料を推定している。電子顕微鏡と付属の蛍光X線分析装置を用いて、繊維の媒染に作用したと推測される鉄分の有無を確認し染色技法の一端を観察した。

   本展では、資料の素材や技をさまざまな目線で見詰めている。展覧会の舞台裏にある、科学的な調査の一端にも触れてみてはいかがだろうか。

   (国立アイヌ民族博物館・大江克己研究員)

   ※白老町の国立アイヌ民族博物館が開催中の収蔵資料展「イコロ―資料にみる素材と技」をテーマにした本企画は毎月第2・第4土曜日に掲載します。

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