「まさかそんなことになっていたとは」―。JR苫小牧駅南口の旧商業施設「駅前プラザエガオ」をめぐる民事訴訟の一審判決が今年2月に出る直前、本紙1面で展開した訴訟の背景を伝える連載に、読者から続々とそんな感想が寄せられた。苫小牧市中心部の「まちの顔」の現状に対する市民の関心の高さをうかがわせたが、エガオが2014年に閉鎖して6年余り経過した今も、駅前再生の道筋は見えてこない。
昨年1月、旧エガオの土地の一部を所有する不動産会社・大東開発(苫小牧)が賃料相当分の損害賠償を市に求め、訴訟に発展した。
エガオビルの運営会社の経営破綻(はたん)で、権利関係が複雑な物件が廃虚化する懸念が浮上。市はもともと運営に関与していなかったが、公的な見地から権利の無償譲渡を受けて単独所有者となるため、29個人・法人に及ぶ権利者の説得に動いた。
結果的に建物すべてと大東所有分を除く土地の権利集約に成功したため、建物を所有する市が訴えられることになった。
2月の一審判決は、土地所有者の財産権を重視。大東側の主張が全面的に認められ、札幌地裁は市に賃料相当分を含む損害賠償約580万円を支払うよう命じた。これに対し、市はビルの廃虚化を防ぎ、駅前活性化につなげるため、中間的な受け皿として建物、土地の所有者となった経緯について裁判所の判断がなかったとして、控訴した。
7月に札幌高裁で始まった控訴審は裁判長の和解勧告を大東側、市双方が受け入れたため、非公開で和解に向けた協議が今も続く。
ただ今後、控訴審の結論が出ても、駅前の再整備が動きだすかは不透明。あくまで地権者が土地の占有を理由に賃料を求める訴訟で、土地を公共的な理由で市に無償譲渡する是非は争われていないからだ。駅前再開発の前提として、市が建物と土地の100%の権利集約を掲げる以上、残る唯一の土地を所有する大東側の判断が鍵となる。
仮に市がすべての権利集約を諦め、再開発を進める方針転換をした場合、新たな問題の発生も予測される。すでに無償譲渡した権利者に再度、それへの同意を得る必要が生じる。もし、建物解体などに市費を投じれば、本来は民間で解決すべき問題に対し、市民に広く負担を強いる結果となる。
今月の市議会定例会で、市はビル解体を条件に再整備計画の提案を受けた上、民間事業者に物件を無償譲渡する方針を改めて示し、ビルを中核に周辺の駅前広場、旧バスターミナルとの一体的な再整備を行いたい考えを強調した。岩倉博文市長は「(エガオの)権利を100%取得して、次の段階に進めるように全力を尽くす」と力を込めた。
中心市街地の活性化を願って駅周辺の清掃活動を続ける市民グループの代表で、ライブハウス「ELLCUBE」(王子町)を経営する、杉村原生さん(42)は「駅前に関心を持っていることを発信したくて続けている。早く周辺が生まれ変わってほしい」と話した。
(河村俊之)