死んだ子どもがうちにいます―。
師走を前にした11月30日、運転免許の更新手続きで混み合う苫小牧署を母親に付き添われて訪れた若い女性は、神妙な面持ちで署員にこう切り出した。
捜査員は、女性が暮らす苫小牧市北光町のアパートに急行した。1階にある居室は生活用品やごみであふれていた。乱雑な部屋をかき分け、ようやく発見した子どもの遺体は、臭いが漏れ出ないようビニールのようなもので密封されていた。この部屋で子ども2人と暮らしていた徳田愛実容疑者(28)が死体遺棄の容疑で逮捕された。
アパートや戸建てが並ぶ閑静な住宅街は、物々しい雰囲気に一変。パトカーや黒塗りの警察車両がアパートを取り囲み、大勢の捜査員が出入りする様子を、近所の住民が不安げな表情で見守った。60代の男性は「まがまがしくて恐ろしい光景だね」と眉をひそめた。この地域に30年以上住むという80代の女性は「こんな騒ぎは初めて。すごく怖い」と青ざめた表情で語った。
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近所の住民などによると、徳田容疑者がこのアパートで暮らし始めたのは4、5年前。当初は幼い子ども1人と夫とみられる男性との3人暮らしだったが、そのうちに男性の姿が消えた。近くに住む男性は「時期ははっきり分からないけど、その後も2人生まれて、子ども3人とお母さんで暮らしていたようだ」と話す。
同署によると、遺体は死後半年以上が経過。性別は不明で身長80~90センチ、年齢は1歳半~3歳ぐらい。解剖で骨折など目立った外傷は見られなかったが傷みが激しく、死因は特定できなかった。徳田容疑者は淡々と取り調べに応じているといい、「自分の子で男の子」と供述した。深く反省している様子はうかがえるが、なぜ死に至ったのか、遺体を放置したのかは不明だ。子どもの出生届は出されていなかった。
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付近の住民は「仲のいい親子だった」と口をそろえる。
70代の女性は「子どもと手をつないで買い物に行く姿をよく見た」と話す。子育て中の女性は「優しいママという印象だった」と振り返る。別の男性も「会えば愛想よくあいさつをしてくれていた。子どもの泣き声もほとんど聞いたことがなく、虐待とかはなかったんじゃないかな」と話した。
地域で交通安全の見守り活動をしている男性は、赤ちゃんを抱いて小学生の子を学校に連れていく徳田容疑者を何度も見ている。「毎朝、見守ってくれてありがとう」とお礼を言われたこともある。「本当に子どもを大切にしていたと思う」と沈痛な面持ちで語った。
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幼い子どもを救う手だてはなかったのか―。苫小牧市で11月に発覚した死体遺棄事件から、子どもの命を守るために地域の大人が果たすべき役割について考えたい。全3回。