政府の行為によつ(っ)て再び戦争の惨禍が起ることのないや(よ)うにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する―。
この一節を含む前文から日本国憲法は始まる。「最初は憲法と法律の違いも分からなかった」と頭をかく、苫小牧九条の会事務局長の佐々木功さん(75)。「権力者を縛るのが憲法と気づき、知らないうちに憲法に守られているんだ、と感じたんだ」と続けた。
産炭地の空知管内上砂川町で日本が終戦を迎える1945年2月に生まれた。4人きょうだいの長男。まちの祭りで傷痍(しょうい)軍人を見掛けたり、ラジオから尋ね人の情報が流れたり、戦争の爪痕が日常に残っていた記憶がある。学校では朝の会で児童がニュースを発表する時間があり、近所の火事など身近な話題からビキニ環礁の核実験といった社会問題まで取り上げた。「新聞を読んで、社会に関心を持つきっかけになった」と懐かしむ。
室蘭工業大学を卒業し、理科教師として網走高校や稚内商工高校を経て、92年4月、苫小牧総合経済高校に着任。「楽しく生きてほしい」との願いを秘め、生徒たちと向き合った。2005年に定年退職が迫る中、苫小牧の九条の会設立に関わった。
社会に広がる改憲への動きに警戒感を強めた作家の大江健三郎さん、澤地久枝さんなどの著名人たちが九条の会を04年に結成。それに呼応して地域の活動も活発化し、苫小牧市でも05年4月に「苫小牧九条の会」が誕生した。呼び掛け人には佐々木さんの他、元市議や市内の医師、牧師、大学教授、画家、さまざまな市民団体の代表者などが名を連ねた。同月に市文化交流センターで開いた結成の集いには約200人が詰め掛け、改憲反対への熱気に包まれた。
15年の歳月が流れた。会員は現在255人。高齢化が着実に進んでいる。5月3日の「憲法記念日」の講演会と総会をはじめ、社会情勢を見て不定期で学習会を開いたり、会員向けニュースの発行・配達をしたりするのが主な活動だ。
16年の参院選で、憲法改正の発議に必要な衆参3分の2以上の議席を改憲勢力が占めたため、翌年には条文から憲法を勉強し直す全5回の連続講座も企画。「憲法が権力の乱用を縛る一方、個人を尊重し、思想信条の自由を保障するからこそ9条も守られる」と改めて学んだという。
ただ佐々木さんは「こうした憲法の価値が国民の間で共有されているかどうかは分からない」と浸透の難しさも認める。「私自身も正直、九条の会の活動に関わる中で憲法の大切さを知ることができた。この会をあの時、作っておいてよかったと思う」
(河村俊之)
佐々木 功(ささき・いさお) 1945年2月、空知管内上砂川町生まれ。苫小牧九条の会には設立準備委員会から携わり、2009年から事務局長。高丘泉町内会長も務めている。趣味は釣り、パークゴルフ、ボウリング、囲碁。苫小牧市泉町在住。