竹林の描かれたついたてから、半身を乗り出した勇壮な虎の姿。鋭い目つきでこちらをにらみつけるその姿は、リアルに再現された硬質な毛並みと相まって威風堂々とした迫力を醸し出している。
吉田傑の手掛けるダンボール作品の第1作目となる本作は、時の将軍足利義満が、一休にびょうぶ絵の虎が夜な夜なびょうぶを抜け出して暴れて困っているので退治してほしいという難題を出したところ、縄で捕らえる代わりに虎をびょうぶ絵から出してほしいと切り返し、将軍を感服させたという「一休頓知話」に由来するものだ。
作者の吉田傑がダンボールで動物を作り始めたきっかけの一つに、その素材が触れられる身近なものであったことが挙げられるという。ここに挙げた逸話は、本来は触れられないイメージを造形物として具現化させようとする吉田の創作姿勢の本質に通じるものといえるが、以降、題材や素材、構成などの表現のバリエーションを増やしつつも、その姿勢は一貫したテーマとして探求され続けている。
当館のラウンジに展示されたこの作品のほかにも、展示室内では当館所蔵のはく製や化石とともにダンボール作品を紹介。ダンボールという素材の持つ強靭(きょうじん)さと柔軟性という双方を兼ね備えた作品の数々は、会場で多くの鑑賞者を魅了している。羊の毛並みの柔らかさやエゾシカの有する立体物としての構成美、そして、ゾウガメの皮膚に刻まれたしわの肌合いなど、間近にご覧いただくことで多くの発見があることだろう。
(細矢久人・苫小牧市美術博物館学芸員)