アイヌ文化が根付く白老町に、伝染病をもたらす悪い神をウサギが勇敢に追い払い、人間の村を守ったという神謡が残されている。
海の向こうから村へ近づく青い霧は病気の悪い神。それを丘から見た1匹のウサギが大急ぎで浜へ駆け下り、おしっこを引っ掛けて退散させた―。そんな物語だが、ウサギが頑張ったのか、クラスター(感染者集団)が発生した両隣まちの状況と異なり、白老町内ではこれまで不思議なほど新型コロナウイルス感染の話は耳にしなかった。
しかし、今月下旬、町役場の職員が相次いで発症し、役場以外に一般住民からも感染者が出た。海から来る悪い神は第3波の勢いに乗り、ついにウサギの抵抗を打ち負かしたというのか。アイヌ民族の昔話は別に置いて、白老も当たり前ながら新型コロナと無縁ではないと思い知った町民は多いはずだ。
重症化の恐れがある高齢者が人口の半数を占めるまちだけに人ごとではない感染拡大の国内情勢に町民の不安も高まる。ウイルスに隙を与えぬよう改めて基本の予防策を徹底したい。
専門家に言わせれば、現状は野球のゲームに例えて「3回表・コロナの攻撃」の段階。つまり、今回の第3波を抑え込んでもスコアボードのごとく4回、5回と手ごわい攻撃が長期に繰り返される可能性があるのだという。開発ワクチンの安全性が確認され、国民に行き渡るのはまだまだ先となる見通しだ。気を引き締めていきたい。(下)