札幌市中心部のイチョウ並木で、黄金色の葉が風に舞って次々に落ちてくる。駅前通地下歩行空間(チカホ)では、コロナ禍に負けずに伝統の「菊まつり」を開催中。晩秋が終わろうとしている。
そんな季節。大道芸人のギリヤーク尼ケ崎さんが、横浜で90歳の記念公演を行ったというニュースを見た。今年は新型コロナウイルスの影響で、予定していた全公演が中止。支援者たちが奔走して会場を確保し、実現にこぎ着けたという。
ギリヤークさんとの思い出は尽きない。かつて苫小牧にあったライブハウスの店主で早逝したTさんの紹介で、初めて取材して以来、親しくさせてもらった。あの店で3人で語り合ったことは、今でも忘れられない。お互いにまだ若く、1990年代前半の頃だったと思う。ギリヤークさんは自身について書かれた全国の記事を収集し、保管している。何通か頂いた達筆の手紙の中に「(あなたの)夕刊時評が大好きです」と書かれていて、恐縮したことを思い出す。
函館から俳優を志して上京するも挫折。ベトナム戦争反対運動で騒然としていた68年10月、東京・数寄屋橋で街頭デビュー。自信もなく初めて踊った時に「女子高校生から小銭を手渡され、踊り続ける決心がつきました」―。当初は「鬼の踊り」と評されたが、阪神大震災をきっかけに「祈りの踊り」に変わった。投げ銭を命の糧に、人生の喜怒哀楽を表現する本物の大道芸人。終わりなき旅が続く。 (広)