若い頃は仕事と生活に精いっぱいで、自分が住む地域には全く興味がなかったが、年を重ね、住民同士で支え合って暮らすことの大切さを実感。自治会活動に熱心に打ち込むようになり、40年がたとうとしている。「みんなが安心して暮らし続けられるまちをつくりたい」と、言葉に力を込めた。
十勝管内本別町で幼少期を過ごし、木材加工の仕事に就いた。厳しい仕事に慣れるために懸命に働き、休みの日には趣味に没頭する日々。「まさに青春真っ盛りで、自分の住む地域を顧みることはなかったね」と振り返る。
転機となったのは30代後半。結婚と転職を機に、苫小牧市有珠の沢町の雇用促進住宅糸井宿舎に住み始め、宿舎の住民でつくる自治会に加入。数年後には会長を務めることとなった。
当時、この地域は子育て中の若い世代が多いこともあり、育児中の親同士が交流できるような行事を積極的に開催。暮らしの安全につなげるため、ベランダに備えられた避難用ロープを使った避難訓練にも挑戦。「いざというときの備えにつながるいい経験だった」と回顧する。
同宿舎に25年ほど住んだ後、住吉町の市営住宅11号棟に引っ越した。移住してすぐ、同棟の住民でつくる自治会の立ち上げに注力。規約の作成や関係機関への協力呼び掛けなどを行い、2008年3月に発足させた。以来13年間、持ち前の発想力と行動力を生かした地域活動を展開してきた。
車上荒らしやごみの不法投棄などの被害が相次いだことから、自治会として防犯カメラを独自に設置。自転車置き場など共有の設備に不具合が発生した際は、市に働き掛けて材料を調達し、他の住民と一緒に修繕に当たってきた。住民同士で助け合えるような機運を高めようと交流イベントも企画。住民同士のトラブルの仲介役も担ってきた。
近年、住民の高齢化はさらに加速。70歳以上の高齢者の一人暮らし世帯は全体の半数に上る。中には90歳を超える人や認知症を患った人も。それでも、本人が望む限りはできるだけこの地で暮らせるよう、高齢者宅を頻繁に訪問して困っていることがないか確認。24時間、いつでも携帯電話を手放さず、住民からの相談にも対応してきた。
活動を通し、いつも心にあったのは人のために骨身を惜しまず働いた父の姿だ。父は炭焼きの仕事を生業としており、決して裕福ではない家庭。それでも生活に困る近所の若い人を毎日のように自宅に上げ、食事を振る舞っていた。その大きな背中は今も人生の道しるべとなっている。
「同じ地域で一緒に暮らしている以上、みんな家族みたいなもの。家族が助け合うのは当たり前だべさ」。柔らかなまなざしで語った。(姉歯百合子)
村上 博(むらかみ・ひろし) 1940(昭和15)年3月、豊浦町生まれ。幼少期に父の仕事で十勝管内本別町に移住。足寄高校卒業後、同町や上川管内士別町の木材加工会社に勤務。切り絵を趣味としており、住吉コミュニティセンターで毎月開かれているサロンで、切り絵教室も手掛けている。苫小牧市住吉町在住。