一つの列島、二つの国家、三つの文化―。民族学の研究者が専門誌の文章で日本の成り立ちや文化要素の説明に用いた言葉に、なるほどと思った。一つの列島とは、文字通り日本列島のこと。二つの国家は、天皇を中心とした日本国家と、明治初期まであった琉球王国。三つの文化とは、アイヌ文化と日本文化、琉球文化を指す。列島には古くから、母語や固有の生活様式を持つ三つの民族文化が存在してきたことを端的に言い表している。
三つの文化のうち、国民によく知られていないのがアイヌ文化だ。アイヌ民族の歴史も含めて、学校の教育現場できちんと教えてこなかったせいかもしれない。だが、神々の壮大な物語など親から子へ伝え続けた口承文芸や古式舞踊をはじめ、アイヌ民族が育んだ伝統文化は世界に誇れる価値がある。その再生と国内外への発信を担うために誕生したのが、白老町ポロト湖畔の国立施設・民族共生象徴空間(ウポポイ)だ。
7月12日の開業以降、コロナ禍の逆風の中でも入場者は10万人を超え、滑り出しは順調だ。小中高校の修学旅行生も各地から続々と見学に訪れている。初めてアイヌ文化に触れた子供たちも多く、日本が単一民族、同質の文化で成り立ってきたのではないことを学んでいる。
オープンから間もなく3カ月を迎える。日本列島の文化の多様性を知り、多文化共生の意義を理解する場として発展することを期待したい。(下)