日高山脈

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  • 2020年9月9日

  晩秋から春遅くにかけて飛行機が新千歳空港に近づいて高度を下げると右側の窓から白い雪をまとった一連なりの美しい山並みが見える。日高山脈だ。

   「北海道へ帰ってきた」と真っ先に思わせてくれる日高の山々。内外からの旅行者の多くが最初に見る「北海道」も、あの山脈。

   30歳の前後に麓の支局に勤務し朝夕に中部日高山脈の名峰を見て暮らした。はるかなる山・ペテガリ岳(1736メートル)や、最高峰・幌尻岳(2052メートル)の頂上には何度か立たせていただいた。技術も知識もない腰痛持ちを、おだて励まして連れて行ってくれた地元山岳会の先達の何人かはすでに他界した。一歩一歩の苦しさ、満天の星空の美しさは乱暴な声や笑顔と共に何年たっても忘れない。

   環境省は日高山脈襟裳国定公園を2021年度にも国立公園に指定する方針を固めたそうだ。道管理の国定公園指定は1981年、総面積約10万3447ヘクタール。氷河が削った希少な地形、植生や国内最大の原生の河川流域などが評価されたという。報道によれば今後、地元自治体との協議や意見公募の手続きが行われることになる。

   国定公園指定の前後、産業や観光振興を目指して山脈中央部に横断道路建設が計画され、数百億円の事業費を投入してから難工事のため、中止に追い込まれたことも思い出す。たやすく近寄ることのできない厳しさを持ち続ける日高山脈の価値を考えてみたい。(水)

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