上 本好きな子ども時代、犬との出合いで生活に変化

  • 特集, 馳星周講演会 ふるさと語る
  • 2020年9月8日
トレードマークのサングラス姿で昔のエピソードを語る馳さん

  小説「少年と犬」で第163回直木賞を受賞した、作家の馳星周さん=浦河町出身、長野県軽井沢町在住=の講演会(苫小牧市文化団体協議会主催)が8月23日、苫小牧市民会館で開かれた。講演内容を2回に分けて紹介する。

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   苫小牧に来るのは本当に久しぶりです。先ほど控室に”ガタ高”(苫小牧東高校)の同級生が来てくれて思い出しましたが、「満龍」というラーメン屋さんはまだありますかね。高校生のときに日高線の列車で苫小牧に通っていて、帰りの列車の時間まで満龍で味噌バターラーメンをよく食べていたのを思い出しました。

   僕は日高地方の浦河町で生まれました。両親が共働きだったので、祖母が面倒を見てくれていました。「さるかに合戦」の本を祖母に何度も何度も読んでもらい、そのうち話の中身もすっかり暗記し、祖母がいなくてもその本を一人で開いていつの間にか字も覚えていたそうです。

   子どものときから本が大好きで、学校の図書室の本を手当たり次第に読み、読みたい本がなくなると町の図書館で本を読みあさるという小学生時代でした。小学6年生の時、母の転勤で日高町に引っ越すのですが、浦河も日高も馬産地です。そのためか、馬のいないところに住むのと、いつでもどこでも好きな本を好きな時に買って読めるところに行くことが夢でした。

   高校は苫小牧東高校に進学しました。学校が終わってから帰りの列車の時間まで、お小遣いがあるうちは満龍でラーメンを食べたり、駅前の喫茶店でコーヒーを飲みながら漫画を読んだりしましたが、お金がなくなると、ほぼ毎日のように駅前のダイエーの中にあった本屋さんで立ち読みしていました。当時の本屋さんには大変申し訳ないです。

   大学は神奈川県の横浜市立大学に進学しました。本に埋もれて暮らしたいという希望をかなえ、上京してからは浴びるように本を読みました。それと同時に、新宿の歌舞伎町に出入りするようになり、酒を飲み、本を読み、映画を見る日々を送りました。

   30歳になるころ、小説家として世の中に出ることになりました。デビュー作の「不夜城」は恐ろしいほど売れ、小説家としてこれ以上ない船出となりました。お金がいっぱい入り、馬鹿な遊びをいっぱいして、失敗もいっぱいしたものです。

   作家としてデビューする1、2年前、バーニーズマウンテンドッグというスイス産の大型犬と暮らすようになりました。最初に飼ったその犬が11歳の時、余命3カ月と宣告され、最後の夏を蒸し暑い東京で過ごさせるのは嫌だと思い、長野県軽井沢の別荘を借りて過ごしました。ところが、東京ではよぼよぼだったおばあちゃん犬が、軽井沢では走り回るんです。この10年間は僕が犬に無理を強いてきたけど、最後ぐらいは犬のために全てささげようと思い、軽井沢に家を建て、移住を決断しました。そこでの生活はもうすぐ15年になります。

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