胆振東部地震で37人が犠牲となった厚真町。土砂崩れでむき出しとなった山肌の整地などが進む中、町職員の中村真吾さん(44)は産業振興に奔走している。60代の両親と祖母(94)を亡くしたが、「地震の町で終わらせたくない」と前を向く。
2018年9月6日未明の地震発生後、中村さんは実家のある富里地区を含む担当区域へ巡回に向かった。「裏山は絶対に崩れない」が口癖の父から連絡はなく、ようやくたどり着いた実家は土砂にのまれ、屋根も見えなかった。
その後も使命感から巡回を続けたが、当時のことはよく覚えていない。役場に戻ると、仕事からいったん離れるよう町長に命じられ、その日の夜に両親、2日後に祖母が遺体で見つかった。
葬儀などに追われ、職場復帰したのは9月28日。不安を口にすると、妻の美鈴さん(44)に「やるしかないでしょ」と背中を押された。職場の上司も「いっぱい仕事あるぞ」と迎えてくれた。
復帰後は地元経済の維持に奔走。個人経営の店が事業を続けられるよう仮設店舗を設置するなどした。以前から誘致に力を入れてきたが、震災後も厚真町での起業を希望する人は少なくない。「いつまでも落ち込んでいられない。自分も一緒に前に進もう」と感じた。
中村さんは大学卒業後、神奈川県や静岡県で飲食業に就いたが、両親の勧めもあり、26歳で地元に戻った。家族3人の命を奪ったが、厚真の自然が好きで、その気持ちを大切にしたいと思っている。
「今やっている仕事を信じ、誠意をもって町民と接し、とことんやり切る」。古里の将来を見据え、町づくりに力を注ぐ。