住まい

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  • 2020年9月7日

  玄関の鍵の調子が悪くなり、帰宅のたびに扉の前でガチャガチャする日が続いた。中に入れなければ、食事も入浴もできない。くつろぐこともできないので、疲れも取れない。切羽詰まる出来事だった。

   もしこれが、突然家が全壊した、あちこち壊れて住めなくなったとなれば、どれほど衝撃を受けるか。胆振東部地震後、安平、厚真、むかわ町で仮設住宅住まいになった人々は、みんなそういう経験をした。耐震性のない家にはもう住みたくないだろうに、やむなくプレハブ仮設で暮らし、今はその仮設の入居期限も迫って転居先を決めなければならない。

   東日本大震災で建てられた仮設住宅の入居期限は、特例的に延長が繰り返された。宮城県で入居者すべてが退去したのは、震災から9年1カ月を経たこの4月。住まいは生きる上での重要な拠点。心身の健康、経済的な事情、転居先に望む条件などを踏まえ、慎重に決めた結果だろう。岩手県、福島県には今も入居者がいる。

   被災地では役所や役場の職員も被災者だけに心情を分かり合え、寄り添った支援ができる。事情があって転居先を決めかねている胆振3町の仮設住宅の入居者にも、その人が日々を歩んでいるスピードに合わせ、息の長い支援が続けられることを願う。最後まで置き去りにされなかった安心感は心のエネルギーとなり、その後の生活再建に生きるはずだ。(林)

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