残暑が厳しい8月末の放課後。安平早来中学校ソフトテニス部の部員は、重い荷物を背負って町内大町の仮設校舎からの長い坂道を上っていた。目的地はときわ公園のテニスコート。15分ほど歩いて到着するとすぐに準備し、1時間20分足らずの決して十分とは言えない時間内で黙々とボールを打ち込む。帰りのスクールバスが来るまでに練習を終え、学校に戻る。それが今の日課だ。
「もう慣れました」―。主将を務める2年生の森崎心景さん(14)は、そう言って笑顔を見せた。
町内北進の高台にある校舎は震災で損壊し「危険」の判定を受けた。周辺ののり面が崩れ、グラウンドも亀裂が入るなど壊滅的な状態。屋外を主な活動拠点にする体育会系の部活動は練習の場を失った。全国大会出場の実績があるソフトテニス部もその一つだ。
震災後、約1年はときわ公園のテニスコートを使用できず、厚真町や千歳市まで足を延ばして練習機会を確保してきた。部員にとって移動が大きな課題となったが保護者らが送り迎えし、活動を支えた。同校の元教員で現在、指導者として携わる島義幸さん(65)は「練習時間が限られ、往復の移動にも30分はかかる。そんな状態で一時はどうなるのかと思った」と回顧。「親御さんの理解がなければできなかった。頭の下がる思い」と語る。
そんな多くの人たちの努力が報われたのは昨年夏。中体連で全道優勝を果たし、2年連続で全国大会の出場を決めた瞬間だ。当時の3年生のひたむきな姿は今の部員たちの目にもしっかりと焼き付いている。
ただ今年は、新型コロナウイルスの流行で中体連の各大会が中止に。それでも部員たちは1年後の全国出場を新たな目標に掲げる。森崎主将は「コートがなくても『早中は強いんだぞ』という気持ちで頑張っていく」と意欲をたぎらせる。
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野球部も1年以上、仮設校舎隣にある早来小学校のグラウンドを借りて白球を追い掛けている。一つのグラウンドを複数のクラブで利用するなど互いに気を使うこともあるが、主将の藤長葵さん(13)=2年=は「学校にグラウンドがないのは厳しい。それでも使わせてもらえるだけありがたい」と感謝の思いを語る。
チームのモットーは「やる時はやる、楽しむ時は楽しむ」。少人数のため、新人戦は隣の追分中学校と合同チームで公式戦に参戦するが、現在開催中の地区大会では2勝を挙げてベスト4に進出。震災の影響を感じさせない戦いぶりだ。
逆境を力に変える心の強さ。次世代を担う若い力がスポーツを通じて地域に明るいニュースを届けている。
(石川鉄也)