(1)仮設住宅 迫る退去時期  期間猶予訴える声も 

  • 特集, 胆振東部地震から2年
  • 2020年9月1日
仮設住宅で暮らす加賀谷さん

  「考えることはたくさんあったが、これからは生活が大変になりそうだ」

   厚真町表町の仮設住宅に暮らす加賀谷俊昭さん(80)は不安そうに語る。町内宇隆でコメを作り続け、引退を考え始めた矢先に震災で自宅が全壊。2018年11月から仮設暮らしが始まった。プレハブ造りの住宅は壁が薄いため冬は寒く、夏は暑い。エアコン設置後は環境がやや改善したものの、外の音が室内に響くなど、落ち着かないこともあるという。

   長年続けてきた農業は震災を契機に引退した。今は妻の弘子さん(77)と2人で暮らし、解体した自宅周辺で野菜を育てたり、テレビを見たりしながら過ごす。「仮設生活はみんなも同じ。多少の不便はやむを得ない」。10月に新町の災害公営住宅へ転居する予定だが、一番の心配は家賃の支払い。月数万円の年金収入はあるものの、持病で2カ月置きに医療機関を受診。生活費も考えると「貯金を切り崩すことも考えている」と顔を曇らせる。

   本郷の仮設住宅に暮らす農家の荒谷志津夫さん(47)は高丘の自宅が土砂に襲われ、大規模半壊になった。家財道具も被害に遭い、仮設入居時にテレビや冷蔵庫、洗濯機などをすべて買い換えたという。

   コメや大豆、ハスカップを育てていた45ヘクタールの農地は約半分が土砂で埋まったが、懸命な復旧作業により一部で営農を再開した。「仮設から畑に通うのも慣れた。ご近所さんも高丘の人が多く不満はない」と語る。ゆくゆくは町内に新居を建てる方針だが、「仮設の退去期限までには間に合わない。できればそれまで仮設に住まわせてほしい」と訴える。

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   災害救助法によると、仮設住宅の入居期限は原則2年。入居者は今年秋から冬に退去時期を迎えるが、大きな被害を受けた東胆振の3町は個々の事情を踏まえ、町民に寄り添った支援策を打ち出す。共通しているのは退去に伴う引っ越し費用の支援や家賃補助などだ。

   厚真町は、災害公営住宅への入居時に必要な敷金などの負担軽減策として一律30万円を補助。安平町も公営住宅などを用意する以外に、賃貸住宅に住む場合は家賃の一部を支援している。むかわ町では仮設入居者の約3割に当たる23世帯46人が10月末までの退去が難しく、国へ入居期間の猶予を要望中だ。

   各町とも新たな生活に向けてさまざまな施策を講じているが、むかわ町危機対策グループは、今後は転居先での見守り体制が重要になると指摘。担当者は「ボランティア団体や社会福祉協議会などと連携しながら、一歩ずつ日常を取り戻してもらえるよう支援していきたい」と話している。

    (室谷実、半澤孝平)

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   6日で胆振東部地震発生から2年を迎える。甚大な被害が出た厚真町、安平町、むかわ町で懸命に生きる人々の現状や課題を掘り下げる。5回連載。

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