「園名を公表する必要がある」―。苫小牧市元中野町のなかの保育園で3月15日、園児が新型コロナウイルスに感染していることが判明し、市と同園は協議して園名の公表に踏み切った。当時0~5歳児104人が在籍し、不安払拭(ふっしょく)と感染拡大の防止が急務だった。臨時休園や消毒作業など迅速な対応が求められる中、選択肢は限られていたのかもしれない。
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日曜日だった同日の昼前、地白佳代子園長の携帯電話に連絡が入った。「見たことのない番号」に戸惑って出ないでいたが、繰り返しかかってきたので出ると苫小牧保健所から。園児の感染判明を告げられて「頭が真っ白になった。直後のことをよく思い出せないほど」。コロナ予防を徹底していただけに「まさか」という思いだった。同園は認可保育園で市が保育事業を委託する形式。すぐさま市と今後の対応を協議した。
園児の保護者は情報公表に同意し、焦点は園名を公表するかどうかだったが、地白園長は「園名を公表するしかない」とすぐに腹を決めた。「園名を公表しなければ保護者の不安は大きくなる。隠してもうわさがうわさを招き、個人攻撃につながるかもしれない。周りの保育園に迷惑を掛けてもいけない」と考えた。報道対応は市の責任で行い、同園は保護者対応などに専念することになった。
午後3時に道が感染者情報の速報を出し、午後5時から道、市が園名を発表することになった。同園は速報が出たタイミングに合わせ、保護者向けに緊急メールを一斉送信。園児が感染した事実を報告した上、翌日から臨時休園することを伝えた。個人が特定されないよう園内で口止めを徹底しつつ、報道発表の先手を打つ形で情報を発信したことで、保護者から直接の苦情はなかったという。
園関係者はインターネット交流サイト(SNS)を極力見ないよう心掛けた。心ない誹謗(ひぼう)中傷が上がっていることを知ったからだ。「自分たちは事実を分かっている。コロナ対策もしっかり取り組んできた。何も恥ずかしいことはない」などと言い聞かせながら、「未経験のことばかりで心が折れそうだった。ネットを見ていたら本当にぽっきり折れていたと思う」と話す。
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一方で周囲の温かい声に救われた。園児の健康チェックで家庭に電話するたびに、保護者からは「先生、大丈夫」「頑張って」などの声をじかに聞き、中には「職場でも『なかの保育園だから』と協力してもらえた」と喜ぶ声も。給食の食材を毎日仕入れているが、業者にキャンセルを伝えなければならないところ、業者側から電話が入ってスムーズに発注も止められた。
園内で濃厚接触者が特定されたため、臨時休園期間は2週間を要したが、同園で感染は拡大することなく収束。地白園長は「公表しなければ乗り切れなかったかもしれない」と振り返る。「保育園を休むということ自体が未経験の出来事だったが、周りの協力はとても大きかった」ためだ。いち早い情報共有で信頼感を醸成し、園関係者や保護者らが同じ立場になって、コロナと向き合った2週間だった。
(コロナ検証班)