《3》 手探りでの態勢構築 公表ためらう事情も

  • 検証コロナ禍 感染公表編, 特集
  • 2020年8月26日
新型コロナウイルスの患者に対応している苫小牧保健所

  「居住地情報の公表が市民への注意喚起など感染予防につながる」「個人情報は漏れないよう配慮します」「デメリットとして個人が特定される可能性があります」―。

   苫小牧市内で新型コロナウイルスの感染が確認された場合、苫小牧保健所は患者に陽性判明を伝えるのに併せ、居住地情報を公表するか否かの意向を確認している。感染者は限られた時間の中で感染した事実と向き合い、動揺しながらも、重大な決断をしなくてはならない。

   市が「本人の同意」を前提に、市内在住であれば居住地情報を公表するための手続き。保健所はこの「本人の同意」を得るため、患者と直接向き合う役割を担う。保健所の担当者は「今は苫小牧市と100%連携できている」と強調するが、2月の感染拡大の初期段階では「連携が不足していた面もあったと思う」と打ち明ける。誰もが経験したことのないウイルスとの対峙(たいじ)。暗中模索しながら態勢を構築していった。

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   市内で初めてのコロナ感染者が出た翌日の2月23日、さらに濃厚接触者2人の陽性が判明した。道が午後9時半に公表することになり、市もその30分後に記者発表の場を設定した。道の発表は現在、午後3時に速報し、午後5時に詳細の発表が定時化しているが、初期はルールもなく、市担当者も即応に四苦八苦した。手探りで情報を発信しようとする中、自治体名の公表で手違いが生じた。

   市は前日に感染者2人を「市内在住」と公表していたが、23日は濃厚接触者2人を「胆振管内在住」とするにとどめた。市の担当者は最初から「自治体名を公表できる」と踏んだが、当時は市と保健所の連携も不十分で、市は本人同意を確認できないまま発表の場に臨むことになった。記者発表で市担当部長は「市内在住の可能性は高いと思われる」「公衆衛生と個人情報の尊重を考えた結果」などと釈明に終始。市として主体的に関わりながら、公表基準を自ら揺らす結果を招いた。

   市には22日から26日にかけて、休日や夜間に管理人が受けた電話も含め、100件を超える問い合わせがあった。市民の不安を払拭するどころか、感染拡大の不安に駆られるように、感染者情報の開示を求める声が殺到。患者の人権を無視した意見もあった。27日にようやく濃厚接触者2人を「市内在住」と公表し、問い合わせもやや沈静化したが、情報発信の在り方に課題を残した一こまだった。

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   苫小牧保健所の野尻彰生次長は「公衆衛生のみを考えた場合、出せる情報は出した方が、感染予防につなげられる」と説明する。感染症法が積極的な情報公表を義務付けている背景から「『身近で出たから気を付けよう』と顔が見える中で注意喚起でき、発表することで安心してもらえる部分もある」と話す。

   一方で個人情報の保護を強調し「本人の意向は大事にしなければならない。すべての情報を機械的に出すことにはならない」と訴える。患者や企業がインターネット交流サイト(SNS)などで誹謗(ひぼう)中傷され、その後の生活に影響した事案を耳にし、「患者も感染したくて感染したわけではないことを皆さんに理解いただきたい」。公表に二の足を踏む事情にも理解を求める。

  (コロナ検証班)

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