《1》 クラスター発生の危機に直面 情報発信の限界あらわに

  • 検証コロナ禍 感染公表編, 特集
  • 2020年8月24日
8月3日の市長記者会見。感染者が居住する自治体名を伏せたまま市として情報発信に踏み切った

  「クラスター(感染者集団)になるかも」―。8月2日午前の苫小牧市役所一室。日曜日にもかかわらず、緊張感に包まれていた。市内の企業・団体による新型コロナウイルス感染事例の相次ぐ公表を受け、市は対策本部会議を急きょ開いた。岩倉博文市長や2人の副市長、全部署の幹部が集まって対応を協議。感染者の居住地名は伏せられていたが、市長名で緊急メッセージを出し、翌日に記者会見を開くことを決めた。

   7月30日から8月1日にかけて、道は胆振管内在住4人の感染を公表したが、居住する自治体名は非公表だった。理由は「本人の同意を得られていない」ため。道の公表基準は感染者の同意が原則。保健所を持っていない市町村は、独自に情報を公表することができない。行動歴など詳細は示されなかったが4人は濃厚接触者だった。ここ最近は、非公表事例も増える中、道の発表のみであれば苫小牧市民の多くは注意を向けなかったかもしれない。

   時を同じくしてトヨタ自動車北海道、苫小牧工場を操業するダイナックス、出光興産北海道製油所、苫小牧地区サッカー協会の4企業・団体が、それぞれ従業員や関係者の感染事例を発表した。いずれも社会的責任を果たすための公表だったが道はこれらの情報を結び付けて発信することはなかった。2月22日に市内で初の感染事例が判明して以降、「本人の同意」を前提としながらも、4月19日までに市民計7人の感染事例を公表してきた市の役割がにわかに大きくなった。

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   そもそも7月23~26日の4連休で、市幹部らは人の動きが活発化したことに警戒感を強めていた。感染再拡大の兆候が出ていた東京をはじめ、札幌との往来者も多い苫小牧の地域性などを懸念していた矢先。ある幹部は「クラスターになるかもしれないという危機感があった」と振り返る。市民の不安を払拭し、感染拡大を防ぐため、個人情報に留意しながらどこまで踏み込んで情報発信するかがカギとなった。

   8月3日の記者会見で、市は道と企業・団体が個々に出した情報を、1枚のプリントに並べて記しながら、担当者が「道はこの情報とリンクさせていないし、市として関連付けているわけではない」と説いた。緊急メッセージは「自分の身を守る」ことを意識した行動の重要性を訴え、「3密(密閉、密集、密接)が発生する場所を徹底して避けること」などを求めた。「居住地情報」を棚上げしながら市民と危機意識を共有する狙いがあったが、一般論に終始する印象も与えた。

   会見で岩倉市長は「(保健所や各企業との)情報共有は100%やっているが、すべてを公表できるということではない」と苦悩の一端を明かした。結局、4人の濃厚接触者も全員陰性で、クラスター認定に至らなかったが、インターネット交流サイト(SNS)で個人を特定する動きは止まらず、市に情報開示を求める声も相次いだ。情報発信の限界が浮き彫りとなった一幕。感染公表をめぐる関係者の苦悩が続いたこの半年間を象徴するようだった。

 (コロナ検証班)

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   新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、苫小牧市内で初の感染者が確認されてから半年が過ぎた。感染拡大を防ごうと市民や関係機関・団体の模索が続く中、情報公開をめぐる一連の対応を全5回で検証する。

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