酷似

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2020年8月19日

  「政治は言葉」といわれる。政治家は言葉で政策を説き、支持を得て政策の実現を目指す。国であれ市町村であれ規模の違いはあっても構図は同じだ。

   以前の勤務地の首長のことを忘れない。議会前、市長室とコピー機の間を自分で往復しながら演説原稿の推敲(すいこう)をしていた。いつもだという。部下には任せられない、言わねばならないことがあったようだ。用意された原稿をそのまま読む度量だけで、首長は務まらないということか。

   上旬に広島と長崎で行われた被爆者慰霊行事の安倍首相のあいさつが、ほとんど同じだったいう。報道によれば「本日ここに、被爆75周年の」で始まるあいさつは、地名や式典の名前が違うだけで段落の数や約1140字の表現の9割も一致したそうだ。改めて読んだ。「謹んで、哀悼の誠を捧(ささ)げます」「心からお見舞いを申し上げます」という言葉が痛々しいほどにむなしい。被爆者や団体からは、失望の声や「何のために被爆地まで来たのか。ばかにしている」と、怒りの声も上がっているそうだ。記者会見で酷似を指摘された官房長官は「どうしても同じような内容になってくる」と釈明をしたそうだ。誰が原稿を作り最終点検は誰が行ったのか。

   新型コロナ対策の適否や国会召集拒否で、内閣の支持率が、比較的穏健な報道機関の調査でも一段と低下しているようだ。国民との距離はさらに大きく開いた。(水)

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