横綱としての強い覚悟があった。黒星発進となった照ノ富士。「今場所やれることをやって駄目だったら、という思いがあった」。この日、母と妻子を館内に呼んでいた。悲壮な決意が胸の内にあったのかもしれない。
隆の勝にもろ差しを許したが、構わず前に出る。左で上手を引き、じっくりと攻めて寄り切った。幕内の本割で過去7勝5敗。優勝した昨年の名古屋場所では14日目に不覚を取り、決定戦で借りを返した相手だ。「一つ自信になる」。手応えを口にした。
初日は若隆景の右腕をいきなりたぐろうとして墓穴を掘り、「変なことを考えて悔いが残っていた」と振り返る。だからこそ、「自分の全てを出し切ってやりたい。後先を考えずやりたいと思った」。並外れた精神力。攻めあぐねても、信念が揺らぐことはなかった。
両膝の痛みや持病の糖尿病などで全休が続き、3場所ぶりに復帰した今場所。万全ではない中、一人横綱の責任感から土俵に上がることを決めた。「その日、その日でやれることをやる。そのことに変わりはない」。気力を振り絞り、場所を引き締めるつもりだ。