北海道大学など全国12大学が研究目的で保管していたアイヌ民族の遺骨が白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)・慰霊施設に集約され、14日に北海道アイヌ協会による鎮魂式と供養の儀式が行われた。明治から昭和にかけて墓地から掘り起こすなどして収集した1500体以上の遺骨は長く、ずさんに管理され、アイヌ民族から問題視されていた。慰霊施設への移送を終え、鎮魂式で同協会の加藤忠理事長(80)=白老町在住=が12大学関係者を前に述べた主催者あいさつの内容を詳報する。
アイヌ民族は明治以降、創氏改名、同化政策の負の政策、暗い影の時代が長く続いた。しかし、多数者の価値観が優れているというのではなく、出身地、肌の色、宗教など多様性を認め合う時代へと変わってきた。先住民族に関する国の政策立案は、こうした新しい時代に即したものであってほしい。
慰霊施設への遺骨の受け入れを前に11月2日、先祖供養のイチャルパをここで行った。そして、墓地から掘り起こされた遺骨が、遺族の思いを込めた副葬品と共に慰霊施設へ無事収納された。ここが先祖の名誉、尊厳が回復される空間になるよう強く望む。過去の出来事を忘れることはできない、水に流すこともできない。だが、対話を続ければ、必ず新しい何かが生まれる。互いに理解し合い、認め合うことが大事だ。アイヌ民族が特別な存在ということでなく、多数者も少数者も暮らしやすい社会をつくろう。
11月5日に北大、19日に札幌医大が遺骨保管に関して反省、謝罪の言葉を述べた。だが、遺骨収集の経緯についてはまだ不明な部分も多く、各大学は今後も情報提供に努め、遺骨問題に向き合い続けてほしい。今年、アイヌ施策推進法が施行された。先住民族の観点から歴史、文化、社会、経済を捉え、見直す政策が進めばと思う。知里幸恵は大正時代にまとめた「アイヌ神謡集」で、かつてのアイヌ民族の平和な暮らしに思いをはせ、民族の将来に光が差し込むことを願った。光が差し込む―、まさに期待したいところだ。海、山、川と多様な自然を利用したアイヌ民族の営み、歴史を振り返り、その精神を学び、平和な社会づくりにつなげることも大事にしたい。
人間の尊厳に関わる遺骨問題について、国は自らの責任を明確にし、各省の連携で対応に取り組むべき。先祖を敬い、子孫の幸せを願う気持ちはどの民族も同じなのだ。各大学の遺骨収集にどのような背景、動機があったのか、その研究成果はアイヌ民族を含めてどのように社会に還元されたのか、明らかにしてほしい。単に大学から返還された遺骨を慰霊施設に安置して終わりということではない。先住民族の社会的地位の向上、共生社会づくりに生かしていくことも重要だ。
差別的扱いを受けた先祖の傷を癒やすのは、今生きている人々の協力、理解があってのことだ。すべての皆さまの理解の下、先祖が静かに眠ることができる立派で美しい施設ができたことは心を込めて感謝したい。