買わない

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  • 2019年9月23日

  1970年代にヒットしたダウン・タウン・ブギウギバンドの賣(売)物ブギは、笠置シヅ子の買い物ブギのオマージュ曲として知られる。「山の手育ち」の女性が賄賂発覚に伴う一家の没落で、家財を一切合切売ってしまう歌詞は子ども心にも新鮮だった。「こうなりゃ食うため何でも売っちゃえ」「瓦にかわやにカイロにちり紙」「デスクに電蓄、LP、SP…」。友達と曲中、売り物がいくつ登場するのか数えたりしたのを思い出す。

   ニーズが多様化していても盗んだ物を売る行為は許されない。今月に入り、日高で引退した名馬のたてがみが切り取られているのが相次いで見つかっている。被害に遭ったのは、GIレースなどで活躍した今も人気のある元競走馬で一部は、インターネットのフリーマーケットに出品されていた疑いが浮上している。警察が器物損壊事件として捜査しているが、馬に静かな余生を過ごさせたい牧場関係者に動揺が広がる。

   日高は、国内軽種馬生産の8割を占める「世界有数の馬産地」(日高振興局)。犯行の手口は似ており、ちまたでは同一人物が切った可能性もささやかれる。馬の尊厳を傷つける行為は一競馬ファンとしても腹立たしく、一日も早い解決を願っている。「なみだを馬のたてがみに 心は遠い草原に」は馬をこよなく愛した寺山修司の詩。本当のファンなら絶対に買わない。(輝)

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