「時には命に関わる選択」

  • 内山安雄の取材ノート, 特集
  • 2025年1月24日

 世界が混迷する今だからこそ、26年ぶりにフィリピン最南端に位置する、絶海の小さな島を再訪する計画を立てている。いつまでも忘れがたく、前からどうしても戻ってみたいところだ。

 だが、ここにきて行くかどうか再考を迫られている。それというのも一帯の島々は今、フィリピンからの分離独立をめざすイスラム過激派組織の活動拠点になっているのだ。

 その実動グループはかつて異教徒のカトリックの僧侶や政府軍に通じる農民を問答無用で殺害している。革命税と称して、要求に応じない大地主や実業家を処刑し、見せしめのために何度となく遺体を人目につく路上に転がすという蛮行をくり返している。

 そうなのだ、その戦略は世界を震撼(しんかん)させてきた、あのイスラム国によく似ており、深い連係があると長らくいわれている。

 私はかねてより、家族や親しい友だち、そして仕事の関係者にこういっている。

 『私が海外で取材中、いかなる災厄や犯罪に巻きこまれようとも、全て自分ひとりの責任で対処します。よって、どなたも私のために何かをしてくれる必要はありません。もちろん日本という国家にも何も求めません』

 ちょっと勇ましく、そういってみた。だが、イスラム過激派組織による外国人を狙った処刑事件の数々を見ていると、こう思うのだ。いざという時には、私という一介の物書きの自己責任では済まなくなってしまうだろう。

 日本人も前世紀の終わりからこれまでに何度となく宗教がらみのテロの犠牲になっている。不幸な事件で人質になった本人の意思に関係なく、国家までいやおうなく巻きこんでしまうことを目の当たりにしてきた。

 しがない物書きの私ごときであっても、万が一の場合には多方面に多大な迷惑をかけるのは明白だ。そんな事態だけは招きたくない、としみじみ思う。

 実は最近になってイスラム過激派の拠点とされる絶海の孤島に行くべく、フィリピンへの航空券を手配し、その先の船をチャーターする直前だった。

 だが、こういうむずかしい時代と状況なのだから、渡航を見直すしかないだろう。なんといっても命あっての物種、周りに迷惑をかけるわけにはいかないのだから。万が一誘拐されて国家的な問題にでもなれば自己責任を問われ、生き恥をさらすことになりかねない。そんな覚悟はないのだから……。

 ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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