世界一に返り咲いた女子52キロ級の阿部詩の目には、光るものがあった。「よかったなという、ほっとした気持ち」。強さを証明し、率直な思いを口にした。
48キロ級と合わせて2階級で五輪メダルを持つクラスニチとの決勝は激しい組み手争い。実力者に対し、足技でけん制しながらチャンスをうかがい、最後は低い姿勢からの背負い投げで仕留めた。
2回戦敗退の屈辱を味わった昨夏のパリ五輪後は、メンタルを立て直すのに苦労した。「この世界選手権の舞台に立ちたいと思うのにも時間がかかった。すごく苦しい1年だった」
背後を取られて畳にたたき付けられた記憶は頭にこびりつき、稽古で技の受けを強化しても恐怖心は拭い切れなかった。それでも、実際に大舞台に立ったこの日は「恐怖心を感じることなくできた」。戦いを重ねるごとに、失った自信を取り戻した。
日本選手では谷(旧姓田村)亮子の7度に次ぐ、歴代単独2位となる5度目の世界選手権制覇。3年後のロサンゼルス五輪へ、完全復活した女王はこう言った。「阿部詩という物語がまた始まった」。苦労の末につかみ取った栄冠は、これまでとは違った重みがある。