文学と映画に見る反戦 5 戦争が切り捨てる 「はざま」 小説 「灰色のミツバチ」

  • KU, 暮ラ1
  • 2025年6月18日
アンドレイ・クルコフ(AFP時事)。ウクライナ侵攻後、遠ざかっていたロシア語による小説執筆を再開したという
アンドレイ・クルコフ(AFP時事)。ウクライナ侵攻後、遠ざかっていたロシア語による小説執筆を再開したという

 もし世界に「敵」と自分の二人しかいなかったら、どうなるだろう? そんな未来図は想像したくもないが、それに近い状況に置かれたのが、ウクライナのロシア語作家アンドレイ・クルコフの小説「灰色のミツバチ」(沼野恭子訳、左右社)の主人公セルゲーイチである。

 舞台は2017年。ウクライナの東部ドンバスでは、親ロシア派とウクライナ軍が戦い、にらみ合いを続け、いわゆる緩衝地帯「グレーゾーン」ができている。養蜂家のセルゲーイチは、そこにある小さな村で、幼い頃からのけんか友達と二人だけで残っている。他の村人はみな戦闘を恐れて避難してしまったのだ。

 まったく気の合わない二人だが、電気もなく食糧も買えない不便な生活を送るうち、野原に放置された死体を確認したり、郵便物を仕分けしたり、何かと協力し合わなければならなくなる。

 春が近づき、主人公はミツバチの巣箱を車でけん引して旅立つ決心をする。砲弾が飛び交う中では自由に花蜜を集めることのできないミツバチのために、平穏な場所に移動しようというのである。

 やがて同業の養蜂家だった知人を訪ね、ロシアが実効支配しているクリミアにまで足を延ばす。寛容で優しいセルゲーイチは、そこでクリミア・タタール人の一家と助け合うことになる。

 彼は決して声高に反戦を主張するわけではないが、ミツバチ同様、平和を志向していることは間違いない。大事なのは、小説そのものが、白か黒か、味方か敵かという単純な二元論ではなく、黒でも白でもないさまざまな色合いの灰色(グレー)に注目していることである。グレーゾーンを舞台にしているのも、それを象徴的に表しているのだろう。

 仮に白黒の二分法を「戦争の原理」と呼ぶなら、その対極にあるのは、白と黒の中間にあるディテールや複雑な事象、細やかな情感を重視する「はざまの原理」ではなかろうか。前者が死の臭いに満ちているのに対し、後者は受粉を助けるミツバチのごとく、生命をつなぎ育む。文学や芸術の神髄は、まさにこの「はざま」にあるのではなかろうか。

 (沼野恭子・東京外国語大学名誉教授)

 (終わり)アンドレイ・クルコフ(AFP時事)。ウクライナ侵攻後、遠ざかっていたロシア語による小説執筆を再開したという

こんな記事も読まれています

  • テストニュース

       あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

    • 2025年8月26日
    テストニュース
  • テストフリー広告

       苫小牧民報社創刊75周年記念講演会 入場無料  【講師】アルピニスト 野口 健氏  【演題】富士山から日本を変える  ~山から学んだ環境問題~  日時・会場・申込・問合せブロック  2025年(令和7年)8月9日(土)

    • 2025年7月18日PR
    テストフリー広告
  • テストフリー広告

       <!DOCTYPE html>  <html lang=”ja”>  <head>  <meta charset=”UTF-8″

    • 2025年7月18日PR
  • TEST
    • 2025年7月15日
  • TEST
    • 2025年6月26日
ニュースカレンダー

紙面ビューアー