北陸

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  • 2024年1月10日
北陸

  1都1道2府43県。数は覚えていても各都道府県に関する知識は、悲しいほどに乏しい。令和6年能登半島地震も、手元の地図を見て地名の読み方を確認しながらで申し訳ない。北陸には親戚も知人もおらず、記憶に残るのは置き薬の補充に訪れる「富山の薬屋さん」だけだ。

   子どもの頃、薬の入ったこうりを何段かに重ね、大きな風呂敷に包んで背負ったおじさんが訪ねて来た。姿が見えたら外遊びは中止。急いで帰って、おじさんの到着を待った。楽しみは、お土産にくれる紙風船だ。おじさんは、持参した薬を広げ、売れた薬は小さな紙袋の口にフッと息を吹いて開けて入れた。手付きが鮮やかだった。薬箱は食器棚の上などに置かれ、家族の健康を守ってくれた。声や顔は忘れたが優しさは覚えている。

   被災者の捜索作業が続く。元日の大地震で、帰省した孫や子ども、迎えた高齢の父母や祖父母の犠牲が多くてつらい。孤立した集落から避難した若い母親の言葉に胸が熱くなった。「みんな、いい人ばかりです」。薬屋さんの優しさは、あの地域に、今も伝わっているらしい。(水)

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