2022年に現役選手を引退したアイスホッケー女子元日本代表主将で、苫小牧出身の大沢ちほさんが「スマイルプロジェクト」を発足させ、2年が経過した。「好きで取り組んでいたスポーツの楽しさを伝えられるので全てが楽しく、やりがいも感じている」と語る大沢さんに活動や苫小牧への思いを聞いた。
―プロジェクト発足のきっかけ。
きっかけはスウェーデンでプレーしていた時、地域住民の盛り上がりや環境を目にしたこと。地元チームが試合の日には、住民たちがユニホーム着て歩いていたり、バスなどの交通機関が試合をアピールしたりするなどまち全体が注目していた。苫小牧で育った私も幼い頃、王子製紙の試合がある日は、盛り上がっているイメージがあった。そういった風景を苫小牧に戻したい思いを持っていた。普及活動への取り組みも引退を決断した理由の一つだった。
―プロジェクトを通して伝えたいことは。
競技者としては、持ち味だったパックプロテクション(相手から体やスティックを使ってパックを守るプレー)など、世界で戦うためのスキルを伝えている。五輪に向かう道のりの中で感じたことや経験、競技に向き合う気持ちについても、目標を達成するためにどんな道筋を立てるのか―など、ヒントやアドバイスを伝えるようにしている。向き合い方は子供によって違うが、話を聞き自分の経験を伝える。低学年には、うまくなることや結果を出すことよりも、まずは競技を楽しむことを第一に伝えている。
―活動の中で感じたことは。
道外での活動で、レベルの高い選手の多さ、各選手の貪欲さを感じた。苫小牧のような環境が整っていない地域が多く、近くに代表やプロ選手がいない。活躍する選手たちが、どういった環境でトレーニングしているのかなど、興味や向上心を持った質問を受けることが多い。
―プロジェクトと苫小牧に対する思いは。
苫小牧でアイスホッケーを始めて育ち、続けてきたからこそ、たくさんの経験ができたし、自分の人生を築いてもらったまちが苫小牧だと思っている。全国各地でアイスホッケーが盛り上がることは、競技はもちろん、まちの活性化にもつながると思っているので、苫小牧で恩返しできるような活動をしていきたい。
アイスホッケー界の中では苫小牧が一番いい環境であってほしいし、日本一がたくさんある地域でほしいとも思っている。
―氷都・苫小牧の競技人口を維持していくために必要なことは。
競技人口増加に向けた活動はプロジェクトでも特に力を入れている。まずはアイスホッケーを知らない人たちに興味を持ってもらうことが大事。普及活動としては、子供たち向けのシュート体験会やスケート教室を通して競技に触れてもらっている。現在は札幌市をメインに行っているが、少しずつ競技を始める子供が増えている。長い道のりにはなるが、地道に続ければ大きなものになっていくと思っている。
苫小牧は以前だと、普及活動などをしなくても、競技人口を維持して普及については、そこまで力を入れていなかったと思う。今後は地域の競技関係者が力を合わせ、積極的に取り組んでいく必要があると思う。例えば、送迎などの保護者の負担について、学校とリンクを行き来するバスを通すなど、まち全体で問題と向き合い、連携できれば競技を始めやすい環境ができてくると思う。
―今後、目指すビジョンや取り組みたいこと。
選手の立場では伝えられなかったことを伝えられる環境に今はある。興味を持ってくれたり、成長がみられたりと、取り組みたかったことの手応えもあり充実している。
今後、一番は日本でアイスホッケーをメジャースポーツにしたい。全国に同じ思いを持つ人がたくさんいるのを活動の中で知ることができた。その思いをつなげられるような役割をプロジェクトが担い、さまざまな人たちが手を取り合って一つになり、アイスホッケー界が盛り上がることが理想。そのためには、たくさんの人の協力が必要となるが、それらを全てつないでいきたい。
-大沢ちほ
▽経歴
U18世界選手権2回、世界選手権8回、冬季五輪3回(2014年ソチ、18年平昌、22年北京)出場。
▽所属チーム
トヨタシグナス、岩倉ペリグリン、三星ダイトーペリグリン、ビクトリーホンダ(米国)、道路建設ペリグリン、ルレオ(スウェーデン)
-スマイルプロジェクト
現役引退後の2022年10月に発足し、23年6月から本格的に活動をスタート。競技者に自身の経験やスキルを伝える育成・強化、アイスホッケーを知らない子供たちに競技を知ってもらう普及活動、講演会やイベント出演などによる競技の認知度向上といった3本柱をベースに活動。23、24年には、苫小牧市でアイスホッケーの普及や質の向上につなげようと「スマイルプロジェクトカップ」も開催している。