安全

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  • 2024年4月3日
安全

  第170回直木賞受賞作、河崎秋子さんの「ともぐい」を、生まれ育った山村を思い出しながら読んだ。主人公の熊爪が村田銃を握り、猟犬と共にヒグマやエゾシカを追って生きた明治の道東が舞台だ。胆振の山あいにも、日当たりの悪い山裾の小さな小屋に独りで暮らす人がいた気がする。名前も顔も覚えていない。「獣を殺して生きる者はいい死に方をしない」。大人たちの、そんな難しい会話も記憶に残っていて小説と重なった。

   北海道への和人の入植は江戸時代から明治の初期、道南の海沿いや道央で始まったという。第二次世界大戦後の「戦後入植」では引揚者らが大量に緊急入植した。入植の波が訪れるたびに、ヒグマたちは生息域を大きく変えられて来た。

   道の推計によると2022年末のヒグマ生息数は1万2175頭。23年度のヒグマ捕獲数は1月末で1356頭。過去最多を大幅に更新する見通しだ。人口の減少、人身や農作物被害の増加が要因。道は7500~1万頭に抑制する方向で5月にも捕獲目標数を設定するとか。

   4月。北海道にも芽吹きの春が近い。1日からは山菜採りの入山者らにヒグマへの注意を強く呼び掛ける特別期間。人間の命を守るためだけでなく、ヒグマたちの安全のためにも最大の注意を。(水)

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