産廃最終処分場問題  あびら環境フォーラム パネルディスカッション

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  • 2022年9月13日

 安平町の産業廃棄物処理業者が早来北進地区に最終処分場の建設を計画しているのに対し、町や町民が反対する状態が長期化している。10日に追分公民館で開かれた町主催の「あびら環境フォーラム」では専門家や弁護士がパネルディスカッションを行い、参加した町民ら約110人と環境問題について考えた。主な内容を紹介する。

 上智大学地球環境学研究科・織朱實教授

 産廃物処分場の建設に関して、道が出した許可は胆振東部地震のような大型の災害を想定していなかった初めてのケースでは。温暖化、自然災害が重大化しており、地域の人たちにとって、果たして安全安心なのか。許認可を与えた時から状況が変わっており、防災の観点から強く訴えることは十分に可能だ。

 今回の事例で気を付けなければならないのは、勝った負けたで終わらない傷が残ってくること。運動する人も注意しなければならないし、静観している人たちも同じように考えていかなければ対立構造が生まれてしまう。産廃物処分場を立地することが環境的、社会的、経済的にどういう問題があるのかを全体で共有していかなければいけない。多くの方を巻き込んで同じ目線で話をしていくこと、今までのアプローチに加え、よりよいまちづくりの視点を加えていくことが重要。法律に頼らず、ネットワークをつくりながら話し合いを進めていくことが、これから必要になる。

 東京経済大学・礒野弥生名誉教授

 温暖化や新しい事態が出てきた時に「大丈夫か」という問いへの対応が、今の技術基準では十分ではないことが分かっている。地滑りが起こった場所に果たして強度なものがつくれるのかということについて、安平町の場合、もう一度調査のやり直しを要求することが協議の上でできるのでは。

 ものをつくってまでやらなければならない社会にしていいのか―をアピールすべき。今の現状を広く皆さんが訴え、可視化していくこと、ジャーナリズムの力を使ってでも周知すること。一番影響を受ける人が決定の場に参加できない仕組みになっているが、いろんな手だてで上部組織に対抗し、撤回を言い続けることが大事になる。

 坂本博之法律事務所・坂本博之弁護士

 産廃物処分場事業者にとっては「建てるには良い場所」と言うと思うが、きれいな湿地、水があり、貴重な水生植物も存在するような所を産廃物処分場にしていいのか。都道府県は住民の味方ではないと言ったが、安平町は町民の目線に立って、戦いを進めている立派な町だ。町民の皆さんと一緒に産廃物処分場の問題に向き合って戦いを続けてほしい。

 地域の皆さんが主人公。国や道にやってもらうのではなく、町民一人ひとりがこの緑豊かな場所に持ってこられていいのか―を自分の問題として考えてほしい。訴えられても自分たちの古里、自分たちの命を守るために反対運動をして負けたケースを私は知らない。正々堂々と戦うべきだ。

 安平町環境保全アドバイザー・藤原寿和

 産廃物処分場の建設現場を見たが、専用道路を確保できるのか、放流はできるのか、もし放流できてもオーバーフローし、洪水の原因になるのではないか―など立地上の条件の問題がある。管理型の処分場で遮水シートを敷いていても破損し、そこから汚染が発生するケース、県が関与していてもトラブルになっているケースがある。安平町で建設を予定している処分場についても当初から問題があるとみている。

 まずは問題点を知ること、そして地域の人に広く伝えること。熊本県水俣市では、(水俣病)被害者の経験を基に次世代に良い環境を残さなくてはいけないという思いが学校教育の中でもしっかりと伝わり、子どもたちに浸透している。産廃物処分場の話が持ち上がった時に、事業者が断念せざるを得ない状況になったというケースがある。

 安平町・及川秀一郎町長

 町内にはすでに産廃物最終処分場があり、「小さな町に2カ所はいらない」というのが基本的な考え方。また、建設計画地は胆振東部地震で危険な場所となっていることを説明してきた。道道や町道で隆起や陥没があったほか、道路自体が消失して復旧まで相当な時間がかかった。仮設住宅で生活していた方もいるなど相当な被害が出た地域だ。建設地は道が「土砂災害警戒区域」を出した場所で、そういった場所で建てられ、同じような被害があった場合、有害物質が河川に流出し、公共用水域や地下水に甚大な被害をもたらす可能性があるとして、普通河川の占有申請について不許可を出している。

 町民だけではなく、他の自治体の住民にも同じように問題意識を持ってもらうことが重要。SDGs(持続可能な開発目標)を計画に盛り込みながら、町の課題の一つでもある産廃物処分場の問題にも取り組んでいかなければならない。すでに入っている事業者に対しても規制を強化していく。被災地に寄り添った対応、配慮を粘り強く訴えていく。諦めず、一歩一歩前へ進めていきたい。

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