4 次世代につなぐ平和のバトン 広島訪問や朗読会で非核への思い強める

  • 核なき未来へ 条例20年 市民の願い, 特集
  • 2022年8月17日
広島で豊永さん(前)から被爆体験を聴いた苫小牧の中学生。後列中央が寺谷さん=苫小牧市提供
広島で豊永さん(前)から被爆体験を聴いた苫小牧の中学生。後列中央が寺谷さん=苫小牧市提供
非核平和を願い、朗読会に出演する苫小牧南高演劇部。前列右が黒岩さん
非核平和を願い、朗読会に出演する苫小牧南高演劇部。前列右が黒岩さん

 「見てください、自分の手を」―。終戦記念日の15日。苫小牧市民会館で開かれた平和祈念式典の「平和の誓い」で、凌雲中学校3年の寺谷仁翔(じんと)さん(14)はステージから参列者に呼び掛け、そして続けた。「熱線が町を襲い、一瞬でその手の皮膚が剝がれ、垂れ下がり、誰か分からなくなるほど顔は焼けただれました」

 参列者は、77年前の広島原爆の惨状を想像しつつ、核のない未来への思いを強くした。

 寺谷さんは、今月1~3日に行われた市の中学生広島派遣事業に参加し、他の生徒4人と一緒に被爆地・広島を訪問。語り部の豊永恵三郎さん(86)=広島市=から悲劇の体験に耳を傾けた。

 当時9歳の豊永さんは原爆が落とされた後、街の中心部にいた母と弟を探しに行った。待っていたのは惨劇。皮膚が焼けただれ、顔の判別も付かない人たちが「まるで幽霊のように」歩いていた。やっとの思いで見つけた母は大やけどを負い、弟も原爆症で生死をさまよった。終戦間際に起きた恐怖の出来事を、まるで昨日のことのように鮮明に語る内容に、寺谷さんら生徒は「遠い存在だった核兵器が急に身近なものになった」と感じた。

 命を脅かされることもなく、当たり前のように日常生活を送っている。しかし、ロシアや中国、北朝鮮など核保有の周辺諸国の情勢を考えると、「今は決して平和ではない」と思う。自分たち、さらに次の世代が生きる世界に、決して核の災いを招いてはならない―。研修に臨んだ仲間と話し合い、共に式典ステージで発表した「平和の誓い」はこう結んだ。

 「二度と戦争を起こさないために、平和な世界をつくるために、私たちが責任をもって後世に伝えていくことを誓います」

 ■   ■

 戦時の体験者が次々に世を去り、生の記憶が途絶えようとする中で、平和のバトンをどう次世代へ引き継ぐか―。各地で模索が続いている。苫小牧では市民グループ「ヒロシマ・ナガサキを語り継ぐ会」が1995年から毎年8月、原爆詩などの朗読会を企画。今年も「長崎原爆の日」の今月9日、三星ハスカップホール(市糸井)で開いた。

 同会は朗読会を始めた当初から、地元の小中学生や高校生ら若い世代の参加を積極的に呼び掛けてきた。近年は苫小牧東高と苫小牧南高の演劇部員が毎年出演し、今年は南高の部員7人が朗読に当たった。

 「朗読会に参加する前までは、戦争は歴史の教科書で学ぶ一つの史実に過ぎなかった」。南高演劇部の部長を務める黒岩結華(ゆは)さん(16)はそう言い、「核兵器は怖いけど、自分には何もすることができないなと、どこか人ごとだった」。だが、2年連続で朗読会に参加し、考えが変わった。朗読を通し被爆者の怒りや悲しみと向き合い、「平和を実現させるのは、私たち一人ひとりなんだ」と自覚した。

 政治や国際情勢は複雑で、よく分からないことも多いけれど、「核戦争に進む道だけは絶対に選ばないよう、勉強して社会を見る目を持ちたい」。

 20年前に生まれた市非核平和都市条例に込めた市民の願いは、次代を担う若者に受け継がれている。   (終わり)

 ※姉歯百合子、河村俊之が担当しました。

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