▽田んぼに子どもらの声
「冷たい」「転びそう!」
6月上旬、むかわ町宮戸小学校から歩いて5分ほどの場所にある田んぼで、子どもらの歓声が響いていた。
行ってみると、同校の全校児童が田植え体験をしていた。今春の入学生はいなかったので、田んぼの中にいたのは2~6年生10人。はだしになって泥に入り、1アールほどの区画に「ゆめぴりか」の苗を手植えしていた。例年行われている行事で、悪戦苦闘する低学年の一方、手慣れた高学年は素早く丁寧に作業を進めているのが分かった。
▽全校で思い出を共有
「またみんなでにぎやかに作業ができてよかった」。そう話したのは、児童会長の辻野宗一郎君(12)。全校児童での田植えは昨年と一昨年、新型コロナウイルスの感染拡大や天候の不良で中止になったので、今年は3年ぶり。しかも宮戸小で行う最後の田植えだった。「自分たちが住んでいる地域で、楽しい田植えの思い出をみんなでつくれてよかった」。感想を話した児童はみんな同じようなことを口にした。
▽廃校に至った経緯
同町には穂別、宮戸、鵡川中央の3小学校がある。このうち宮戸小は今年度、1年生が入学せず、在校生は2年生以上が10人。町が鵡川中央小への区域外就学を認めていることで、宮戸小の校区から通っている児童もおり、町教育委員会は昨年末の町議会全員協議会で、同校を今年度限りで閉校することを明らかにした。少子化などの影響で児童増の見通しが立たず、やむを得なかった。保護者や自治会に理解を求める説明会をすでに行っている。
▽6年間の成長を実感
関係者によると、胆振東部の小学校が地域の農家の協力を得て田植え体験授業をするのは珍しくない。ただ、ふるさと教育として5年生を対象に行う学校がほとんどで、学校行事として全校児童で行うケースはあまりない。宮戸小では田植えから秋の稲刈りまでの作業を、全校児童が6年間体験でき、その中で米作りの過程や大変さを学んでいる。
住民にとっては、地域を学校・児童とつなぐ以外に、地域の未来を支える世代と触れ合い、成長を見守る楽しさを実感する取り組みになっている。「苗は指でつまむように持って」「根をしっかり土に入れて」と声を掛けると、子どもたちは「これでいい?」と確認を求めたり「上手にできた」と笑顔を浮かべたり。幼い1年生のころは泥に入るのがやっとだったあの子が―。そんな場面に毎年出くわすという。
ここ数年、田んぼの一部を提供してきた斉藤哲成さん(52)は「毎年、子どもたちの成長を感じることができる」と田植えに奮闘する児童たちに目を細めていた。「最後だから、記念に残る体験にしてあげたい」と思い入れは深い。
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むかわ町、安平町早来地区では、2023年3月末に小中学校5校が閉校する。このうち、むかわ町の宮戸小は115年の歴史に幕を閉じ、来年度は鵡川中央小に統合される。ラストイヤー、思いをはせながら前へ進んでいく児童、そして地域を追っていく。