環境省が「日本の重要湿地」に選定している白老町のヨコスト湿原の保全に向けて、町は2022年度と23年度の2年計画で自然環境調査を実施する方針だ。湿原の乾燥化や外来植物の侵入、ごみの不法投棄などで貴重な自然が脅かされている中で、湿原の現状や生き物について詳しく調べ、保護の方向性と手法を見いだす。本格調査は10年度に実施して以来となる。
沼地や草原、林など多彩な自然環境を形成し、絶滅危惧種を含め多様な動植物が息づくヨコスト湿原をめぐっては、周辺地域の土地利用の影響や流入河川の水量低下などで乾燥化が進んでいる。また、急速に分布を広げたオオアワダチソウなど外来植物が、湿原の生態系を支える在来植物を駆逐する問題も顕在化。ごみの不法投棄や、釣り人らによる海岸でのたき火も環境を脅かしている。
中でも湿原の生命線とも言える河川の状況については、ポロト湖奥地を源にヨコストへ流入するウツナイ川の流れが悪化。乾燥化に拍車を掛ける恐れがあり、早期対策の必要性に迫られている。
こうした状況を踏まえて町は、湿原対策の基礎となる自然環境調査を22年度から2カ年かけて実施する。専門機関に業務委託し、湿原全体の現況、植物や野鳥、昆虫の生息状況を調べる。町が10年度に行った環境調査の結果と比較し、10年余りの間にどのように変化したか実態をつかむ。
実施に当たっては、外来種の抜き取りなど保全活動に取り組む環境町民会議、ヨコスト湿原友の会といった関係団体の協力を得て進める。同町民会議は今年度、独自に植生や鳥類について調べており、その結果もベースにする。
調査ではドローン(小型無人飛行機)も活用。季節ごとに上空から湿原の動画や写真を撮影し、植物の分布状況や水の流れなどを把握する。ハード、ソフト両面で保全の手法を探り、調査結果と守る手立ての方向性を示した報告書を23年度に取りまとめて発行する。ハード面ではウツナイ川の流量低下を改善させる方策が大きなポイントになる。
町は、調査過程の情報をデータベース化し、植物分布を地図に落とした植生図も作成する方針。ドローンによる撮影も継続してデータを積み重ね、将来にわたる保護や活用の事業に役立てる。
事業の実施について同町民会議の中野嘉陽会長は「白老に残る貴重な自然を次代に引き継ぐための手法が見いだされれば」と期待している。
■ヨコスト湿原
白老町日の出町と社台にまたがる低層湿原で面積33ヘクタール。自然海岸とその背後地に砂丘や沼地、河川、草原、林など複雑な自然環境を形成。それぞれの環境に適応する動植物も多種多様で、2010年度の調査では植物463種、野鳥64種、昆虫209種を確認。絶滅危惧種も少なくない。16年に環境省が「日本の重要湿地」に選定。北海道の自然環境保全指針では「優れた自然地域」とされている。アイヌ民族が利用した場でもあるため、民族共生象徴空間(ウポポイ)周辺関連地域にも位置付けられている。