2018年9月に発生した胆振東部地震に耐えた建物がこの春から、新たな役割を担って活用される。むかわ町ではまちなかの空き店舗がチャレンジショップに、厚真町では旧厚幌ダム事務所官舎の一部が大学生らのフィールドワークの拠点となるもので、再出発が目前に迫っている。
むかわ町鵡川地区のまちなか再生検討会メンバーでつくるコアチーム「空き地・空き店舗に新たな価値を生み出すプロジェクト」は、胆振東部地震で被災した中心街にある空き店舗を改修し、チャレンジスペースを4月末にオープンさせる予定だ。今月21日には子ども食堂のプレオープンイベントが開かれ、震災以降の課題でもあるまちなかのにぎわいを生み出した。
建物は町内松風の居宅兼洋品店の店舗フロアをリノベーション。キッチン、バックヤードを確保したほか、フロアには大型モニターも設置。町観光協会が一部を物販のスペースとして活用し、それ以外の部分を起業などを考える事業者向けにチャレンジショップ的な場として提供する。
プレオープンとなった21日は、町内でチーズ工房を営む北川飛鳥さん(39)が企画する「むかわのこども食堂」を開催。ピザやマフィンを振る舞ったほか、入学・進級を応援しようと鉛筆やはさみ、歯ブラシ、お菓子などが当たるくじ引きや輪投げを用意し、時間帯を分散させて子どもや家族連れを迎えた。北川さんは「キッチンやフロアがあって使い勝手がいい。子どもたちにも場所を認識してもらい、放課後の時間を過ごせるような場所になれば」と今後の利用に向けて好感を得た様子だった。
チャレンジショップとしての利用は月に1週間とし、コアチームでは多くの事業者に利用してもらいたい考え。リーダーを務める小坂幸司さん(54)は「週ごとに店舗が変わると、お客さんの層も変わって、いろんな人に使ってもらえるのでは」と構想。駐車スペースの確保などが今後の課題になるとし、「本オープンまでに改善していけたら。運営していく上で出てくる問題に対し、規約を臨機応変に変更しながら対応していきたい」と話していた。
厚真町新町地区にある、かつて旧厚幌ダム事務所の官舎として使用していた空き施設1棟は、札幌市立大学デザイン学部の学生が町内でフィールドワークを実施する際の拠点にするほか、町民に開放することも計画している。活用に向けて同大の学生らがDIYで整備を進めており、今月中にも完成させる予定だ。
作業を行っているのは、デザイン学部の4年生と大学院生の計8人。同学部は15年に厚真町と包括連携協定を結んでいる。昨年は胆振東部地震で犠牲になった町民に哀悼の意をささげる慰霊碑のデザインを手掛けた経緯もあり、学生や大学院生が研究などに無料で利用できる場にすることにした。
空き施設は、町が取得した7棟のうちの1棟(木造平屋建て、延べ床面積71・6平方メートル)で、居間と洋室、和室、台所などを備える。棚などに使う木材は町内の製材業者から調達し、床の断熱材には米農家から提供してもらった米のもみ殻を利用するなど厚真色を出していく。
構想では和室2部屋を仕切る壁を撤去し、広々としたスペースを確保するほか、洋室は資料や研究成果を披露する一室とする。また、近くに災害公営住宅が建っていることから、町民と交流ができるスペースができればと考えている。
作業は今月上旬から始め、中旬には学生らが町内のサテライトオフィスに宿泊して作業に励んだ。同大デザイン学部の金子晋也准教授は「作業に当たる学生にとっても、貴重な体験になっている」と話す。
4年生の村本紗弥さん(22)は「現場は初めてだが、デザインして考えるのと、実際に作業をするのでは違う。自分たちでやり方をアレンジできたりして楽しいですね」と笑顔を見せる。施設を利用するのは後輩らになるが、「卒業生として見に来て『自分がこの改修をやったんだな』ってなれば。すてきな場所にしてもらうことを後輩たちに託します」と思いを語った。